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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第六話 譲れないもの
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まだ払暁の空の下、洋上にはひたすら猛訓練に励んでいる艦娘の姿があった。そのやや離れたところには、もう一人の艦娘が、励ましたり、注意したり、指導したりと、懸命に声をかけ続けている。
「そう・・・そうです!!そのまま、降下角度60度を維持!!・・・目標頭上、対空砲火の死角から一挙に突入して・・・・・投下です!!」
「爆撃開始!!」
紀伊の言葉に各隊が一斉に模擬爆弾を投下した。まるで吸い寄せられるように爆弾は標的艦の艦橋前部中央の弾薬庫頭上に落下し、標的艦は盛大な音を立てて爆発した。訓練を終えた艦載機が次々と自分の飛行甲板に戻ってくるのを紀伊は冷静にさばいて全機これを収容した。
「やりましたね。紀伊さん。」
翔鶴が顔を上気させて紀伊のそばにやってきた。
「艦載機の離発着のコツもつかまれましたし、今の訓練で標的への命中率は60%を越えました。後は雷撃の訓練と艦上戦闘機の防空戦をマスターすれば、大丈夫だと思います。」
「翔鶴さん、本当に、ありがとうございます!」
紀伊は深々と頭を下げた。
「いいえ。もともと才能がおありだったんですもの。私は手助けしただけで、後は紀伊さん自身のお力です。」
「そんな・・・・。」
紀伊は頬を染めたが、ふと遠くに目を止めた。
「もしかして・・・あれは、鳳翔さんではないでしょうか?」
「え?・・あぁ!本当ですね。」
二人はじっと鳳翔の姿を見ていた。鳳翔は沖に出て波に揺られながらも矢を抜き取るとキリキリと引き絞り、さっと上空に向けて放った。その動作には微塵もブレが感じられない。放たれた艦載機にも紀伊は驚いた。烈風でも、まして零戦でもなく、九六観戦と言われる旧式の艦載機だったからだ。だが、九六観戦は一糸乱れぬ編隊を組み、次々と標的を破壊していく。その精度はまさに百発百中、100%だった。
「すごい・・・・。」
「ええ・・・・鳳翔さんはすべての航空母艦の祖と言われた方です。かつては一航戦を務めていらっしゃったこともあります。艦載機の数は少ないですが、精鋭中の精鋭で、その実力はあの赤城さんや加賀さんを凌ぐとも言われています。」
「赤城さん、加賀さんを、ですか・・・・?」
紀伊は息をのんだ。赤城や加賀は紀伊にとってはずっとずっと上の文字通り雲の上の存在だった。鳳翔の実力はその二人の更に上を行くという。紀伊は鳳翔の実像を想像して気が遠くなる思いだった。
「ですから、五航戦の私などにとっては本当に雲の上のような先輩なんです。でも、普段滅多に練習する姿を見かけないのですけれど・・・・。」
翔鶴は少し不思議そうに言った。その言葉が聞こえたのだろうか、ふと鳳翔がこっちを見た。
あっと二人は声を小さく上げたが、鳳翔は一度にこやかに手を振ると、滑るようにしてこっちに走ってきた。
「お二人とも、練習ですか?」
「あ、は、は
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