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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第六話 譲れないもの
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「まったくですわ。たった一度の演習の敗北で決定されていた出撃を取り消すなんて。いったいどういうつもりですの?」
熊野も憤然とした。
「それに、相手は鳳翔さんですわ。空母として精鋭中の精鋭の方です。そんな方に敗北するのはむしろ当然のことではなくて?」
「いいえ、それは少し違うと思います。」
筑摩がやや沈んだ声を出した。
「鳳翔さんに負けるにしても善戦していたならばこんなに大きな騒ぎにはならなかったでしょう。でも、紀伊さんの場合にはほとんど完敗したと聞いています。(二人の演習の話は目撃した艦娘たちから、あっという間に呉鎮守府中に広がっていたのだ)それも・・・新鋭の烈風で旧式の九六艦戦に負けてしまったから・・・。」
「余計に日向や加賀の奴の神経を逆なでしたことになったのじゃな。」
利根が腕を組んだ。
「はい・・・・。」
紀伊は湿った声を出した。
「でも、紀伊よ。おぬしこのまま引き下がるつもりか?」
利根が食卓に両手をつっぱって身を乗り出した。食器が音を立てた。
「それは・・・・。」
「吾輩はそういうことは好かんぞ。負けたままで引き下がるのは大嫌いじゃ。」
「でも・・・・・。」
「お主もお主じゃ。一度負けたのがなんじゃ。吾輩なぞ中破大破は数えきれんほど経験してきた。じゃが、相手には食らいついて離さなかったものじゃ。一発くれてやらなければ、気がすまんというものではないか?」
「みんながみんな利根のようには行かないよ。」
鈴谷が言った。
「でも、あたしは賛成かな。負けたままでいるのは嫌だもの。自分が小さいままでいる様な気がするし。」
その時、寮の入り口のベルが鳴った。
「誰かしら?」
熊野が席を立って玄関に向かった。
「あら!!」
ほどなくして声があがり、相手が何やら答える声がし、熊野が食堂に戻ってきた。
「紀伊さん。」
紀伊が顔を上げると、そこには翔鶴が立っていた。瑞鶴も一緒だった。
「瑞鶴さん、退院されたんですか?」
「そんなことはどうでもいいわ。紀伊、話は聞いたわよ。あんたこのまま黙っているつもり?」
瑞鶴は身をかがめて紀伊を見た。
「それは・・・・。」
ぎゅっと拳が握りしめられた。
「だったらものすごくがっかりだわ。私を命がけで助けてくれたあなたは最高にかっこよかったのに。その時と比べたら今のあなたは大破して沈没しかけているボロ船同然よ!」
「ちょっと瑞鶴――。」
「翔鶴姉は黙っていて!・・・・紀伊、私はがっかりしたわ。あんたはそんなに卑屈な人だったの!?」
「違います!!」
がたっという音と共に紀伊は立ち上がっていた。
「私は・・・・。」
大きく息を吸って紀伊は瑞鶴を見た。
「私は空っぽです。自信なんて何もありません。前世の記憶も、人に胸を張れるものも何一つないんです。でも、でも、こう
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