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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十八話 第七次イゼルローン要塞攻防戦(その4)
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告してきた。確かに戦況は悪い。エルラッハ、フォーゲルの部隊はもう限界だろう。残存兵力は遠征軍、駐留艦隊合わせても八千隻ほどしか残っていない。包囲され脱出の目処は立たない……。このままでは全滅は免れない。
あの男の上に立ちたい、あの男に俺を認めさせたい、その思いで行なった出兵だった。それなのにこの有様か……。周囲が俺を見ているのを感じる。艦橋は俺の返答を待って静まり返っている。
キルヒアイスを見たかったが、怖くて見られなかった。彼を此処まで連れて来てしまったのは俺だ。あの時、彼を軍に誘った時はこんなことになるとは思わなかった。だからといって許される事ではない。俺を恨んでいるかもしれない……。
「閣下」
キルヒアイスの声が聞こえた。何時もと同じ穏やかで温かい声だ。俺は少しずつキルヒアイスを見た。悲しげな、でも何処か俺をいたわるような表情をしている。
何を考えているんだ。キルヒアイスが俺から離れてしまう事などありえない。俺たちは何時も一緒じゃないか。キルヒアイスと一緒なら怖いものなど無い……。降伏勧告か、良いだろう……。姉上、済みません、今度は戻れません……。
「返信を、降伏勧告を……」
受諾すると言おうとしたときだった。後背から攻撃してくる敵の艦列が崩れる。
「味方です! 味方が来ました! 助かった!」
オペレータの絶叫が艦橋に響いた。
助かった。オペレータのその言葉に狂ったような歓声が答える。
「何処の部隊だ」
「今通信が入ります」
俺の問いにオペレータが答えスクリーンに映像が映る。メルカッツ……。
「司令長官、ご無事でしたか」
「救援、礼を言う。何故此処へ?」
「副司令長官が司令長官を案じられて小官に後を追えと」
「そうか……」
そうか……。ヴァレンシュタイン、また卿に助けられたか……。
艦橋にメルカッツ提督が来た、というオペレータの声が上がるとまた歓声が上がった。
「小官の他にロイエンタール、ミッターマイヤー中将が来ております。退き口を確保しますので脱出してください」
「分った」
メルカッツだけではない。ロイエンタール、ミッターマイヤーもいる。その事が更に艦橋に歓声を上げさせる。十分すぎる程の援軍だ。俺はそんなにも頼りないか。いやこの有様だ、頼りないと思われても仕方ないか……。
後背の敵はメルカッツ達の攻撃を受け艦隊が分断されていく。分断されたところから撤退できるだろう。
「ゼークト、フォーゲル、エルラッハ提督に連絡。直ちに撤退せよ、私が援護する」
彼らを撤退させなければならない。指揮官として最低限の義務を果たす。それが今自分にできる事だ。厳しい仕事だがやらねばならない。
「提督方から通信が入っています。繋ぎます」
オペレータが告げる。撤退の段取りか?
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