48.金狼
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クロスカウンター。その言葉が、現実にやや遅れてアイズの脳裏に浮かびあがる。
敵が攻撃する瞬間の体勢移動や加速を利用して逆に攻撃を叩きこむカウンターだが、互いに互いの拳が邪魔しないまま命中すると、両方がカウンターを喰らった形になる。つまり、ティオネが攻撃した瞬間、オーネストはその速度に完全に合わせて諸刃の剣を叩きこんだのだ
「はぁ……はぁ……目覚ましに丁度よかったぜ、お前の拳は……」
「え、ぐぅぅッ!?」
うつぶせのまま痙攣するティオネの背中を踏み潰しながら――魔物をも屠る拳をまともに浴びて鼻と口から血を垂れ流すオーネストは、それでも前に進もうとしていた。ティオネを踏んだのは単に自分の足の運び先を変えなかった結果であって、踏まれて嗚咽を漏らすティオネをオーネストは振り向きもしなかった。
ほんの数秒の出来事だ。その光景を目の前で見た団員の殆どが、何が起きたのか理解しかねたまま停止している。その中を、もう自分が投げ飛ばした相手も殴った相手も忘れたように進むオーネストの体からは、未だに血がぼたぼたと零れ落ちてる。
なのに、オーネストはそれを全く意に介さない。自分の命の源が零れ落ちているのに、彼は躊躇いなく戦い、躊躇いなく進む。自分の望みに、強制的に体を附随させている。
死人が死にきれないまま動いているような悪寒が体を震わせた。
彼は自分の邪魔者を全て叩き伏せるつもりだ。戦って、戦って、邪魔する相手全てを屠って、それでもなお前へ。まだ前へ。そして全身が今度こそ本当に砕け散って動かなくなった時に、彼は――自分の言う事を聞かない自分の身体も、まとめて殺す気なのではないか。
人間が持つ発想とは思えない狂気の少年に、しかし立ちはだかる人間は存在した。
「やれやれ……嫁入り前の娘っ子を傷物にした上に踏みつけるとは、お主いったいどんな教育を受けて来たんじゃ?流石の儂も、少々見過ごせんぞ」
「どきな、老害。若人の道の邪魔になってるぞ」
「ほほう、獣のように唸っていたと思えば……何とも憎たらしい小僧じゃ」
まるで駄々をこねる餓鬼を冷ややかに見つめるように、ガレス・ランドロックは蓄えた髭を指でつまんだ。
ファミリア最古参のパワーファイターからは、決して目の前の敵を通さないという城壁のように固い決意と闘志が湧き出ている。『重傑』の二つ名を持つ彼が、しかも鎧を装備した状態で立ちはだかっているこの状況に――オーネストは何のためらいもなくティオネの血で汚れた拳を振るった。
ズガンッ!!と凄まじい音がするが、ガレスはその場から一歩も動いていない。彼の鎧に包まれた腹に命中したオーネストの拳から、血液が噴き出た。オーネストはその光景を、先ほどの狂いようが嘘のように静かに見つめていた。
「お主
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