暁 〜小説投稿サイト〜
俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
48.金狼
[2/8]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
えこんだ事で遠征そのものがストップしていた。オーネスト――重傷過ぎて誰も彼がオーネストであることを知らなかったが――の存在のせいで数日もダンジョンで無駄な時間を過ごし、苛立ちも募っていたのだろう。早く死ねばいいのに、という囁きもよく聞こえるようになった。

 そんな中、ティオナ・リュヒテは何故か黙々と少年の面倒を見続けた。
 彼女は別に誰かに頼まれたわけではない。気が付いたら、彼女が少年の額に濡れたタオルを置いて、ポーションの混じった水を飲ませていた。病人を触るのは初めてなのか、度々リヴェリア達にどうすればいいか質問して教わりながらも、彼女は彼に拘っていた。
 どうしてか問うと、ティオナは彼を見ながら囁いた。

「この子、お母さんを呼んでた」

 それは恐らくティオナだけに聞こえた、彼のうわごとなのだろう。時折死にかけの身体を微かに震わせ、彼は言葉にならないうわごとを呟くことがある。その一つが、ティオナを突き動かした。

「あたしね、昔はお姉ちゃんと一緒にカーリー・ファミリアってところで………ううん、やっぱなんでもない。……なんでも、ないよ」

 それっきり、ティオナは口を閉ざした。それ以上は聞いてはいけない気がして、アイズも口を閉ざして彼の看病を手伝った。
 姉のティオネも時折顔を出し、ティオナに仮眠をとるよう伝えたり、食事を持ってきてくれていた。ただ、それは少年の事ではなく、少年にかかりきりで時折舟をこぐ妹を慮っての行為だったんだろうと思う。

 ――後に知ったことだが、カーリー・ファミリアとはオラリオの外に存在するファミリアで、主神カーリーは闘争と殺戮を好む余り闘技場に沢山の剣奴隷を抱え込んでいるらしい。そこから導き出される勝手な憶測の数々を、アイズは心の底に押し込んだ。いずれティオナ達が真実を自らの口で語るまで、この記憶は必要がないものだ。

 オーネストが運び込まれて5日――彼の容体は奇跡的にも安定し始めていた。未だ激しい発熱に襲われているが、少なくとも慎重に地上に戻れば助かるかもしれないという展望は見えていた。ティオネは心底ホッとし、周囲は不満を持ちながらも撤収の準備を進める。

 そんな折、アイズは見たのだ。

 数日前は骨が粉砕骨折して形が安定しなかったほどの彼の手が、完全な骨格を取り戻してゆっくり持ち上がるのを。

 それは、遠く離れている誰かを呼び戻そうとするかのように弱弱しい手だった。
 或いは、手で掴む事の出来ない儚いなにかをそっと受け止めようとするかのようでもあった。

 二人は、呆然と伸ばされた手を見つめ、アイズより一瞬早くはっとしたティオナがそれを包み込むように掴んだ。

「キミ、意識があるの!?私の顔が見える!?」

 彼の眼は、うっすらと開かれていた。
 とろりと
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ