第二十六話:目覚め、纏うは“吼殻(オリクト)”
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えた安堵よりも―――まず困惑が広がっていく。
さっきの詠唱といい―――何故、コレを俺が知っているのか?
今起きた状況といい―――何故、俺にこんな事が出来るのか?
突発的な事象といい―――何故、コレが体に眠っていたのか?
“コレ” に全く戸惑わないのならば、そいつはデコ助なみの精神を持っていると言える。
―――いや、例え楓子だったとしてもこの状況に惑うのは必須かもしれない。
妄想し一人電波を垂れ流し、理解を得られる得られない関係なく楽しむ事。
それと思い描いた事が現実の中で飛び出て来て、自分が逃れられぬ深い渦中に居るのとでは……言うまでも無く根本的に違う。
(いや……)
そもそも突発的とすらも言い難い。前から兆候自体はあった。
裏を返すなら起きない方が『不自然』だったのだ。
味覚の変化もそう、親父に殴られた際の違和感もそう、寧ろその程度で済んでいて『くれた』事が、何かの奇跡でしかないと言わざるを得ないか。
なにより強い妄執が籠っていたという楓子の《絶対少女黙示録》ですら具現化したんだ……吐き出せずに溜めこまれていた“膿”を乗せた、俺のノートが例外だと断じる事など出来ない。
元々あった兆候が前触れで、恐らくマリスの『完全婚約』が亀裂を入れて―――今まさに滾る激情が引き金になったんだろう。
―――この上なく “最高” のタイミングで、な。
「ッ……ラァ!」
「おわぁあっ!?」
左腕で思い切り振り払い、一先ずロザリンドを遠くへ弾き飛ばす。
自分でも思っていた以上の剛力を得ていたか、予想のよりもはるかに遠くまで飛んでいく。
向こうが遠間からでも分かるぐらい、目を白黒させていた。
その間隙を見て、改めて俺は左腕に目をやった。
形は宛ら、人間の犬歯を更に尖らせて細長くした感じだ。細長くとは言ったものの、太さは俺の腕と同等と言ったところか。
だが一番異端なのは造形じゃあなく―――まるで腕に食い込んでいる箇所。防具のように装備されているのではなく、本当に融合し一体化していると感じてしまう。
加えて、意味のよく分からない紋章が、左腕全てに走っていた。
更に……この【牙】は鋭さよりも鈍さを感じさせる。
形状も相俟って刃物と言うよりも『鈍器』に近い。
俺とは明らかに違う“モノ”でありながら、されど俺と“同じ”モノを感じる奇妙なまでの矛盾。
コイツは《俺ではなく》だかしかし《俺でもある》という違和感。
だが幾ら重要だろうが、今この場に限って言うのならば……そんな事どうだっていい。
いわば駐車場の時の、初戦闘の時と同じだ。
状況も、対峙している光景も、何もかも違うがしかし、そこ一つだけは依然
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