第三部
名誉と誇り
にじゅうきゅう
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し立てする必要もないとは言え、あれでは何かあると宣言しているようなものだ。
軽く、「とある人物に助けて貰いました」くらい、サラッと言えてしまえばいいのだ。
あれでは交渉事において主導権を得ることは難しい。まだヴァルクムントがこちらに対して好意的な視点で見てくれているからいいものの、そうでなかったら足元を見られ、最悪なんの条件も提示できないまま終わってしまう。
つくづく腹芸ができないというか……。いや、ヴァルクムントが相手だから舞い上がっていると言った方が正しいかもしれない。
間違いなく、エリステインはヴァルクムントに尊敬の念を抱いているし、特別な目線で彼を見ているのは間違いない。
だからと言って、アドリブが利かなすぎるだろう……。
流石のヴァルクムントもこれには苦笑いするしかないようで、チラリとエリステインの視線を追って、私の居場所に検討をつけたようだ。
「さて、そろそろ出てきちゃあどうだ。お嬢ちゃんも困ってるみてぇだしなぁ」
私は2人の視点が固定されているのを認め、やれやれと頭を振って茂みの中から出つつ、光学迷彩機能を切る。
「そっちにいたんですか!?」
「こりゃあ、やられたな……」
敵を騙すにはまず味方から。
私は2人が向けていた視線から全く別の場所、彼女のすぐ後方から姿を現した。
というかエリステイン。テメェこのやろう。予想通りの展開じゃねぇか。
「なんで騙すんですか! 信用して下さい!」
私は無言で振り向いた彼女の顔面を鷲掴み、そのまま持ち上げる。
「……鈍器このやろう。この口か? えぇ? この口が言っているのか?」
「ア゛ァ゛ァ゛! ゴベンババイ、ゴベンババイィィ!」
いつからこの女騎士は、こんなに残念になってしまったんだろう。
一抹の物悲しさを感じつつ、私は徐々に手に力を込めていく。
エリステインは「オォォォォ……」と、女性にあるまじき濁った呻き声を上げながら、もがき苦しんでいるようだ。
ふむ……。
弾けろ!
「おいおい。そんくらいにしてやっちゃあ、くれねぇか」
そう声を掛けてきたヴァルクムントに視線を送ると、なんだか引き攣った微妙な笑みを張り付けていた。
ふむ……。
私は再度エリステインに視線を送って、痙攣し始めていることを確認し、ヴァルクムントへと向き直る。
やっぱり弾けろ!
私は手に力を込めた。
―
「いや、おめぇさん。そこは俺の顔を立てるところだろ」
私の足元で泡を吹いて痙攣しているエリステインを見下ろし、大男はそう宣う。
「にしても……。デケェな、おい」
そんな対して変わらない
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