第4夜 罪人
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があったということは、向こうにも差し迫った事情のようなものが存在すると考えるべきだろう。
何の事はない、相手もパートナーを選んでいられる余裕がないのだ。だとしたら、最低でもこの試験の間は協力して物事に当たれるかもしれない。それに、司法取引の類を持ちかけられるという事は、それだけ教会にとって手放しがたい能力を持っているとも考えられる。
散々な情報ばかりだったが、僅かながら光明が見えてきた。
今はなるだけ深入りはせず、無難な疑問だけ消化するべきか。
「………それで、今になってどうして俺とタッグを組むなんて話になったんです?」
「能力は十二分。生活態度も基本的には問題ない。指示にもある程度は従順だ。しかし……君も知っての事とは思うが、彼女の『欠落』は余りにも大きすぎる。身分も身分だし、このまま埋没させるわけにはいかなかった……そこで上がったのが君の名前だ」
全然無難ではないワードが二つほど飛び出したが、もう思考は後に回す。本人に聞けば分かることだ。
「自覚はないかもしれないが、君は特殊すぎるのだよ。どんな『欠落』を持つ誰であっても状況に適応し、柔軟に物事を運ぼうとする。人間の心の相性を形に表すとしたら、君は粘土のようにどんな形にも張り付き、決して反発しない」
「………その分気味悪がられていますがね」
「そう自分を卑下するな。君なら誰も埋められなかった彼女の『欠落』を埋められる……そう判断されたのだ。めでたいことだろう」
愉快そうに微笑んだ教導師は、鍵束をトレックに手渡して護送車の奥を指さした。
「私が関わるのはここまでだ。これより君は彼女の『管理』を全面的に任されることとなる。この馬車の鍵、内部の牢屋の鍵、彼女自身にかけられた複数の錠、全てその鍵束に対応している。余程変な事や下品なことを要求しない限りは君の指示に従うから、しっかり手綱を握りたまえ」
「えっ――」
「では、所定の時間に遅れないように行動する事だ」
軽くトレックの背中を叩いた教導師はそそくさと馬車を後にし――その場には、知ったかぶりをした結果余計に現状が分からなくなったトレックと、鍵の束だけが残された。
――知った被った俺が悪いとは思いますけど……管理って何すか。
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