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豹頭王異伝
暁闇
カルラアの翼
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 マルガにも、歌は届いた。
 冷徹《クール》に戦況を読み感情を殺し最善の一手を模索する参謀長、ヴァラキアのヨナに。
 古代機械の中で眠り続ける主を護り不眠不休で結界を張る魔道師、サラエムのヴァレリウスに。
 ナリスの無事と帰還を一心に祈り続ける聖双生児、リンダの神秘的な霊能力が映像を受信。
 リンダは異母兄に良く似た黒い瞳と茶色の巻き毛を持つ華奢な男性、マリウスの姿を《視た》。
 1度も見た事の無い吟遊詩人を、出奔後の異母弟と直感的に悟る。

(見て、ナリス。
 貴方の愛する只一人の弟、アル・ディーンが歌っているのよ!
 私の脳裏に映る吟遊詩人の姿、心象《イメージ》を受け取って!!)
 パロの《予知者》は己に秘められた力を用い、湖の小島に眠る最愛の夫に精神接触を試みた。
 予知者は全身全霊を込め溢れる想いを乗せ、鮮明な映像を強力な波動に変換し投影する。

 如何なる理由に拠るものか聖王宮の一角、竜王の傀儡と化した真珠の片割れにも歌は届いた。
 ヤンダル・ゾッグは青星党と望星教団の主導する反乱を鎮める為、遙か東方に在る。
 一時的に放棄され自我の覚醒を得た竜王の傀儡、操り人形の潜在意識にも光の波動が響く。
 リンダが渾身の想いを込めて送り出した思念波、マリウスの歌が心の奥底に響き渡った。

 姉が愛する人に届けと強く念じた《歌》が、未知の次元回廊を通じ真珠の片割れに波及。
 二粒の真珠に精神の同調作用、共鳴現象が励起され聖王レムスの凍り付いた感情を融かす。
 死霊カル=モルを呼び込む原因となった間隙、心の隙間に生じた劣等感と自己否定の黒い罠。
 心を縛る黒魔道の術に優り闇の呪縛、封印を解く《力》を秘めた光の波動が心の隅々に浸透。
 聖王宮を魔宮と化す要因となった聖王の魂が根底から震え、歌声が強烈に鳴り響く。

「僕は…」
 レムスは常人の想像を絶する恐怖に直面、正気を喪った配偶者の手を取り両手で固く握った。
 パロに帰還してからの辛い日々の中で唯1人、己の味方になろうとしてくれた愛する妻。
 生ける操り人形と成り果てた王妃の手を固く握り、頭を垂れ嗚咽する若き聖王。
 歌が最大の効果を発揮したのは真珠の片割れ、弟の秘める心の闇に対してであったかもしれぬ。
 心の奥底で増幅された歌は掌を通じ、精神に異常を来たした妻の裡に吸い込まれて行く。

 パロ聖王国の貴族階級に巣食う陰湿な嫉妬と執拗な悪意、風土病と黒魔道の犠牲者。
 正気と理性を喪い廃人と化した沿海州アグラーヤ王国の姫、長姉アルミナの狂った精神の奥底に。
 マリウスの歌が響き配偶者の抱く慙愧の念、胸を灼く後悔の想いが伝わる。
 リンダと並び聖王国の命運を握る《パロ中興の祖》、《男でもあり女でもあるもの》。
 白銀の髪と紫色の瞳を持つ聖双生児
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