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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十話 決断
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ローエングラム伯は年齢、人望、実績においてまだ不安定な状態だ。ミュッケンベルガー元帥に比べ明らかに見劣りがする、弱い司令長官なのだ。当然補佐が必要だろう、それはヴァレンシュタイン大将しかいないのだ」
俺の話をボルテックは無言で聞いている。表情に敗北感があるようだ。まあそう嘆くな。俺も一時間近く考えて得た結論だ。お前が妙な気を起さないように芝居をしているがな。
問題はこれからだ。外に強い司令長官と内に強い副司令長官。確かに能力的には噛合う。しかし手を取り合っていけるだろうか。ローエングラム伯は人望、実績において自分より上の副司令長官に耐えられるだろうか?
ヴァレンシュタイン大将は、自分より若い司令長官に耐えられるか。また周囲はどう判断するか。宇宙艦隊内部で抗争が起きる可能性が有るだろう。帝国は内乱を防ぐために新たな爆弾を抱え込んだようなものだ。
問題は同盟がこの人事をどのように判断するかだな。安堵感を持つか、それとも危機感を持つか。特にティアマトの英雄はどう思うか。面白いところだ。
シトレ本部長の腹心であるヤン・ウェンリー、ミュッケンベルガー元帥の腹心であるヴァレンシュタイン。両者ともこれまではどちらかと言えば黒子であったと言って良い。しかし此処に来て両者とも表舞台に立ち始めた。この二人の動きは注意する必要があるだろう……。
■ 宇宙暦796年2月5日 自由惑星同盟統合作戦本部 ヤン・ウェンリー
キャゼルヌ先輩から本部長室へ来るように言われた。多分先日のイゼルローン要塞攻略についてだろう。大体の案は説明したが本部長は半信半疑だった。少し時間をくれと言われたが、今日は返答をもらえるに違いない。
出来れば自分で指揮を取りたい。正直、宇宙艦隊司令部に居るのはもうたくさんだ。ドーソン司令長官の嫌味や、嫌がらせにはうんざりする。最近は尻馬に乗る馬鹿な参謀まで出てきた……。
「ヤン・ウェンリーです。入ります」
ドアをノックして部屋に入る。部屋にはキャゼルヌ先輩とシトレ本部長がソファーに座っていた。
「ヤン少将、待っていた。こちらへ」
シトレ本部長が良く響く低い声で呼ぶ、遠慮なくキャゼルヌ先輩の脇に座り、本部長に対した。
シトレ本部長が私に文書を渡した。
「ヤン少将、これを見てくれ。フェザーンの駐在弁務官事務所より送られてきたものだ。一見の価値はある」
「失礼します」
私は本部長に断ると資料を読み始めた。読み終わって溜息が出る。
「どうかね、ヤン少将」
「あの二個艦隊はヴァレンシュタイン少将が絡んでいましたか」
「そうだ。編制から訓練まで全てに絡んでいたらしい」
「それを司令部は寄せ集めだなどと……」
シトレ本部長と会話をしながら私は疲労感に打ちのめされそうだっ
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