第十六話 幼児期O
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「……ァ」
俺は声をもらす。そうだ、何をしているんだ俺は。早くしないと、手遅れになるじゃないか。
俺は死にたくないとずっと考えていたじゃないか。これからを生きていきたいって、ずっとずっと言っていたじゃないか!
『約束だよ』
『あぁ、約束だ』
だけどそれは、アリシアやみんなと、一緒に生きていきたいからじゃなかったのかよ!!
「アリシアッ!! リニスを抱いて、俺のところにこいッ!!!」
「あ、うん!」
俺の声に硬直から抜けだしたアリシアが、俺が叫んだ通りリニスを抱いて走って来る。俺も唇を噛みしめ、コーラルを握りしめる。そしてただ真っ直ぐに、アリシアに向かって駆け抜けた。
心臓が痛いぐらいにはねている。さっきまでの俺は……本当に何を考えていた。なんで当たり前のように、アリシアを見捨てて、自分だけが確実に生き残る選択を選んでいたんだ。守ると決めたのに、一緒に星空を見る約束もしたのに、なんで。
今の俺は、俺だ。それは間違いない。だけど、さっきの俺もまた、自分自身なのだと漠然とわかる。今だって、胸の中に渦巻く負の感情は、変わらずにまだある。そして、俺の思考をまた塗りつぶしてこようとしているのも感じる。
それでも、こうやって動けることに安堵した。疑問はある。恐怖もある。それでも、足だけは前に進める。考えるのも、後悔するのも後だ。俺の中に響く声。うるさい、と俺は歯を食いしばって、意識を保つ。
光が爆ぜる音が耳につく。後方から熱い濁流のような魔力が、迫って来るのを肌で感じる。俺の魔力なんかと比べ物にならないほどの、圧倒的な量。
あと、もう少しなのに。もう少しで届くはずなのにッ!
それは、幻聴だったのかもしれない。走馬燈とよばれるものだったのかもしれない。それでも確かに、俺は耳にしたんだ。
『手を伸ばして』
金色の粒子が、俺たちの周りに舞う。駆動炉から漏れた魔力の粒子。だけど、俺にはそれが、風になびく金の髪のようにも見えた。
『掴めないかもしれない。だけど、掴めるかもしれない。だからこの手を伸ばして』
温かいぬくもりのような何かが、俺の腕をそっと撫でた気がした。気づけば俺は、必死にその手を前へ伸ばしていた。それを見たアリシアも、リニスをぎゅっと片手で抱きしめながら、俺と同じように手を差し伸べていた。
『もしも、届いたなら……』
「届いてくれェーー!!!」
その日、すべての音が光とともに消え去った。
衝撃がうさぎの石を揺らし、床へ落ちて、パキンッ、と小さく砕け散った。
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