第十六話 幼児期O
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ないからさ。……死んだら、もうみんなに会えない。今まで持っていたものも、みんな無くなっちまう。1人ぼっちにだけは、俺はもうなりたくないんだ』
しかし、彼の願いはただ生きることではない。みんなと共に生きていくことが彼の望み。
それは些細な違い。だがそれがこの瞬間、運命をわけることとなる。
******
「わわっ!!」
「みゃぁ!?」
『これは、高魔力反応!』
あぁ、ついに来たのか。突然の揺れと地響きに混乱する周りを一瞥する。俺は手すりをしっかりと握ることで、バランスを崩さないように身体を支える。デバイスからの高魔力反応を探知したという言葉。俺はその原因に、静かに視線を移した。
森に囲まれた建物から、金色に輝く光がまるで龍のように空を昇っているのが見える。光は徐々に渦を巻くように、明確にその姿を現していく。それはとても幻想的で、とても美しく、とても……恐ろしいもの。
俺に、「死」を与えるであろう現象。
『ますたー! ヒュードラから反応が―――』
「早くここから去らないと」
『―――えっ』
俺は転移を発動させる。そうだ、ここに長居したら死んでしまう。俺は、死にたくない。一刻も早くこの場から離れなければ、巻き込まれてしまう。
『ま、ますたァー!! 待って、アリシア様たちがッ!!』
デバイスの声が、俺の集中力を乱してくる。もうすぐなのに、邪魔をするな。確かにアリシアは大切な家族だけど、あの距離じゃ届くか分からない。転移は相手にふれなければ意味がないし、連続使用はできないんだ。間に合わなくて、もし俺が死んだらどうするんだ。
イメージが出来上がり、俺は能力に身を任せる。全身を包み込むような感覚。転移が発動されるその時。
「お兄ちゃん!」
俺を呼び掛ける声に、反射的に身体が反応していた。いつも当たり前のように振り向いていた視線の先には、妹の姿。その身体は震え、目からは涙があふれ出している。それでもアリシアの声は、真っ直ぐに俺に向けて放たれていた。
お兄ちゃん、と俺に向かって。ただただ俺のことを呼ぶ、それだけの声。それだけのこと。
それなのに、なんで―――
『わたしはそんなお兄ちゃんがいてくれて、うれしいです』
なんで、アリシアから視線を外せない。なんで、俺のことを呼ぶだけなのに、こんなにもいろいろ溢れて来るんだ。他のことを考えている暇なんて、俺にはないはずなのに。
『そんなお兄ちゃんのことが、わたしは本当に大好きです!』
それなのに気づけば、俺の発動したはずの転移は不発に終わっていた。俺の後ろから、光が爆ぜるような音があがっている。死ぬわけにはいかない、と叫ぶ声が俺の中で大きくなった。
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