第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
壊れかけの黒:隠者の矜持
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プレイヤーは空のグラスを差し出す。酒瓶から深い赤の液体を注がれては礼を述べ、グリムロックはそれを少しだけ呷る。それだけを見れば、別段変わった様子のない夜半の一時だ。しかし、問題はグリムロックさんに酌をしたローブのプレイヤーにある。
屋内でさえフードさえ外さないでいる女性はそれだけで気味の悪い印象を受けてしまう。何か底知れぬ影を内包しているような、ただのプレイヤーでは在り得ないような程に底冷えする怖気を感じずにはいられない。得体の知れない相手は、しかし意外にも容易に沈黙を破った。
「いえいえ〜、わたしも今来たところですから〜」
――――耳朶を撫でる、間延びした声。既視感は突如として精度を増し、ある記憶を想起させた。
それは霧に鎖され、鬱蒼とした古樹に覆われた第三層において、策略を講じてクーネを一度殺害せしめた者。自らは決して手を汚さず、獲物として狙ったプレイヤーの死に様を《作品》として鑑賞することを嗜好とした最悪の殺人者。
名を、《ピニオラ》と言っていたか。
この二人に如何なる接点があったとしても、その間に交わされていた遣り取りを想像するだけで怖気が走る。それこそ、これまで《あの人》のギルドに起きた悲劇が、彼女が根源であるとさえ思えるほどに。
「ところでぇ〜、昔のお仲間さん達はどうですかぁ?」
「ああ、君の筋書き通りに踊ってくれているよ。今頃、彼女の墓の前に集合していることだろう」
「わぁ〜、それはそれは〜」
懸念のない晴れやかなグリムロックの言葉に、ピニオラも満足そうに頷いて返す。
「それにしても、まさか狂言殺人の小道具作りを持ち掛けて来るなんて思いも寄らなかったけれど、このまま、彼等が本当にいなくなれば………グリセルダは……、ユウコは、僕だけのものだ………」
グリムロックが恍惚とした声で呟く。死んだ筈の妻の名を含んだ独白には、酷く歪で悍ましい響きが潜んでいるように思えてならなかったし、彼の発言には看過できない文言が秘められていたように思える。
――――このまま、彼等が本当にいなくなれば………
もし、ヨルコさんやカインズさんが既に死亡しているならば、わざわざ《本当にいなくなれば》などとは言うまい。それどころか、《狂言殺人》とはつまりキリト達が追っている圏内PKの事ではないか。彼等が追っている事件で犠牲者はいないことになる。キリトは隠されたロジックによるシステムの穴を疑っていたようだが、それさえも見当違いで、掌で踊らされていたことになるのだろうか。
いや、それよりもピニオラが圏内PKの関係者の居場所を把握してしまっているばかりか、会話の流れからいって、グリムロックはかつてのギルドに共に所属したメンバーを残さず殺害するつもりだ。狂言などで
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