6部分:第六章
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第六章
だがその中でだ。意識を回復したスルーはあることを知った。妻もまたかなりの怪我をしていたが血は流れてはいなかった。そして怪我をしても病院には行かなかったと。
「そうだったのですか」
「はい、奥様もまた」
彼はその話を病室で聞いていた。
「怪我をされていましたが」
「それでその怪我は」
「病院で治せるものではありません」
ベッドの中で上体を起こす彼に対して話すのは壮年の医師だった。
「決して」
「命に別状はなくともですね」
「これでおわかりですね」
「はい」
医師の言葉にこくりと頷いた。
「そういうことだったのですか」
「ですが奥様は」
「それもわかっています」
スルーは医師の言葉に小さく頷いた。
「彼女は私を」
「それは間違いありません」
「わかっています」
また述べる彼だった。
「それもまた」
「では。奥様は」
「あいつが元に戻ったらです」
スルーはその顔を少し俯けさせていた。深く思案してそのうえで結論を出した、そうした顔だった。
その顔で語るのだった。彼はだ。
「その時はここに来るように伝えて下さい」
「わかりました。それでは」
こう話したのだった。そして暫くしてエリザベスが彼の入院している部屋に来た。彼女は絶望した顔で俯いて部屋に入って来たのだった。
彼はその妻に対してだ。静かに言ってきた。
「話は聞いたよ」
「そう、やっぱり・・・・・・」
エリザベスは彼の言葉を聞いてさらに絶望を深めさせた。
「そうなのね」
「全部ね」
「そう、だったら」
ここまで聞いてだった。エリザベスはこの言葉を出したのだった。
「さようなら」
「さようならって?」
「もうここにはいられないから」
こう言うのだった。
「だから。さようなら」
「全部って言ったけれど」
しかしであった。ここでスルーはまた全部という言葉を出したのだった。
「全部ってね」
「全てわかってるから。だから」
「だから全部わかったんだよ」
二人の言葉は食い違っていた。だがそれでもスルーは言うのだった。
「君のこともね」
「私のことも」
「そして他のことも。だから」
彼もまたベッドの中で俯いていた。その上体を起こしたまま。
「いてくれるかな、このまま」
「このまま?」
「そう、このまま」
こう話すのだった。
「このままね。いてくれるかな」
「いていいの。私が」
「全部わかったからね」
「だからなのね」
「うん、だからだよ」
これが今の彼の言葉であり考えだった。それを妻に告げたのだ。
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