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お好み焼き
4部分:第四章
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第四章

「俺だって結婚位してるわ」
「そうなんですか」
「そうだ。とにかくだ」
 先生は言うのだった。
「俺もお好み焼きを食うからな」
「あいよ、また一枚予約やな」
「了解じゃけえ」
 遠くからそれぞれ桜と菜月の言葉が返ってきた。行列の向こうを見てみると二人はそれぞれ凄まじい勢いでお好み焼きを焼きそこにソースやマヨネーズや海苔やかつおぶしを電光石火でかけていた。それは最早神の領域に達している見事な動きであった。
 先生はその二人を見て。ぽつりと呟くのだった。
「もう少し時間がかかりそうだな」
「いえ、すぐですよ」
「そうです、すぐなんですよこれが」
「すぐなのか」
 言われてみればそうだった。列の動きを見てみるとかなり速い。少なくとも先生が最初に思っていたよりも三倍は速いものであった。
「確かにそうかもな」
「あの二人手が早いからすぐなんですよ」
「そうそう。それで先生」
 生徒達はまた先生に尋ねてきた。
「どっちにするんですか?」
「大阪ですか?広島ですか?」
「両方食ってみる」
 それが先生の考えであった。
「そうじゃないと両方の味がわからないからな」
「実は俺達もそうなんですよ」
「ですからお金は倍かかってますけれどね」
「やっぱりそうか」
「まあそれでもこの匂いを前にすれば」
「そうそう」
 ソースのその香りをかいでそれだけで恍惚として倒れそうにすらなる生徒達であった。ソースのその暴力的な香りの前にノックアウトされようとしているのだ。
「それだけ出しても」
「惜しくはないですよ」
「そうだな。確かにな」
「その通りですね。では袴田先生」
「あっ、はい」
 ここでそれまで前にいた校長先生の言葉に応える。校長先生も先生もちゃんと並んで待っていたのだ。この辺りのことはちゃんとわきまえているのであった。
「そろそろですよ」
「そうですか。速いですね」
「早い安い旨い」
 こういった店での決まりの売り言葉であった。
「実にいいことではありませんか」
「確かに」
 先生も納得する正論であった。まさにその通りである。だからこそ牛丼が人気の食べ物でありそれができる店は人気になる。まさにその通りであった。
「それでは。私も両方を」
「校長もですか」
「恥ずかしながらこの歳でも底なしでして」
 おおらかに笑いながらの言葉であった。
「それでは。頂きます」
「そうですね。では私も」
「あいよ、校長先生」
「ゴリラブタ、できたけえのう」
「ここまで来てゴリラブタとか言うなっ」
 客として来たのにそう言われてまたしても怒る先生だった。
「大体俺は袴田だ。ゴリラブタじゃないぞ」
「それはええから早く列から出るんじゃ」
「そやそや。皆列になってるからな。はよ出るんや
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