暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 14
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リッテには判別不可能だ。
 そんな事態に陥っているとしたら……想像だけで背筋が凍る。

 ペンを握る手に過剰な力が入り、引いた線がいきなり太くなった。
 海賊による、憎たらしくもまだマシな所業か。
 空気を読まない大迷惑な同業者の犯行か。
 確率は低いが、行きずりの泥棒か。

 そうして、思考は再び最初に戻る。
 探しに行きたくても、アーレストや自警団が許してくれない。
 探し方さえも分からない。
 言葉通り八方塞がりな室内で、複製した文字ばかりが積み重なっていく。

「ミートリッテさん」
「え?」

 唐突に。
 アーレストの両手が、ペンを持つ小さな手を包んだ。
 何事かと驚いて見上げれば、燭台に照らされた神父の瞳がミートリッテをまっすぐに捉えている。

「もうすぐ外が暗くなります。今日は、このくらいにしておきましょう」

 ペンを奪われ、教本を閉じられた。
 いつの間にか暗くなっていた室内に気付き、もう夕方なのかと落ち込む。

(指輪が失くなって丸一日。私に残された時間はたったの二日。どうしたら良い? どうしたら、ハウィス達を護れる……?)

「ミートリッテさん」
「へ……、はい!?」

 急に何を思ったのか。
 椅子の横に回ったアーレストが、固く握った彼女の手を取り、背中を軽く支えてゆっくり立たせた。
 そのまま、二人揃って廊下へ出る。

「よろしければ、ちょっとだけ散歩に付き合っていただけませんか?」
「散歩?」
「ええ。私は着任して日が浅いでしょう? そろそろネアウィック村の中を見てみたくて。貴女に案内役をお願いできればと」

(……ああ、そうか。着任早々捕り物騒動に巻き込まれてるんだし、一人で見て回る余裕はないんだ。私も、指輪が無いならここに居ても仕方ないし)

「別に、良いですけど」

 村の隅々まで探れば、手掛かりくらいは転がってるかも知れない。
 微かな希望を持って頷くと、アーレストは

「ありがとうございます」

 今朝よりは血色が良い、柔らかな笑顔を見せた。



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