第十話 弱さその一
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第十話 弱さ
優花は塞ぎ込んだままだった、自分の身体のことを考えてどうしてもそうなる日々だった。それは部活でも同じで。
彼が描いている油絵を見てだ、顧問の先生はこう言った。
「最近の蓮見君の絵って」
「何かありますか?」
「暗いわね」
実際に色が暗い、青や緑というよりは黒だ。
その黒い絵を見てだ、先生は言ったのだ。
「どうにも」
「そんなにですか」
「部活に出ていても」
それでもというのだ。
「表情も晴れないし」
「それは」
「悩みがあるの?」
今度は優花を見て問うた。
「それでなの?」
「それは」
何故暗いかは自分でわかっている、だが。
そのことはどうしても言えずにだ、こう言ったのだった。
「何でもないです」
「そうなの」
「ただ、暗いですか」
「絵も表情もね」
「全部ですね」
「最近ね、何もなかったらいいけれど」
「大丈夫です」
無理に笑ってだ、優花は先生に答えた。
「何かそんな絵ばかり描きたくて」
「気分的になの」
「最近は」
「青の時代ね」
優花の今の言葉を聞いてだ、先生はこうも言った。
「ピカソの」
「若い頃ですよね、あの人の」
「ピカソは一時期青を基調とした絵を沢山描いていたわ」
あの独特の絵ではなく写実的な絵を描いていた時期もあったのだ、その時期の中にそうした絵を多く描いていた時期もあったのだ。
「それで蓮見君もかしら」
「そうした絵をですね」
「暗いトーンの絵を描きたい時期なのね」
「そうでしょうか」
「そうだと思うわ、だったらね」
先生は優花の真実を知らない、だからこう解釈して言った。
「そのままでいくといいわ」
「暗い絵を描いてもですか」
「そうした絵も芸術でしょ」
「どんな絵でもですね」
「そう、芸術だからね」
それでというのだ。
「描いていくといいわ、描きたいだけね」
「それじゃあ」
「頑張ってね、ただね」
「ただ?」
「ピカソは青だったけれど」
ここでまたこの二十世紀の芸術を代表する偉大な画家の一人を話に出した。
「蓮見君は黒なのね」
「何か黒を」
「使いたいのね」
「気分的に」
「絵は描いている人のその時の心理も出るけれど」
「僕の」
「今の蓮見君は黒の時代ね」
青の時代でなく、というのだ。
「そうなのね」
「黒の時代ですか」
「そうみたいね」
「確かに暗い感じがしますね」
優花自身も先生の言葉を聞いて言った。
「そう言われると」
「そうね、黒イコールだから」
暗、そのイメージはどうしても否定出来ないものであるからというのだ。
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