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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十二話 第三次ティアマト会戦(その1)
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動を執れ。宇宙艦隊司令長官グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー」

「馬鹿な」
「元帥閣下は心臓を患っています。狭心症です。中将はご存じなかったでしょう? 元帥は万一の場合、小官に指揮を執るように命じられました」
私は言外に“お前は信用されていないのだ”と意味を込める、周囲に理解できるように。

〜司令部の制圧には二つのものが必要です。一つは権威、もう一つは力です。権威は此処に用意しました。使ってください。〜
私が使った文書はミュッケンベルガー元帥がヴァレンシュタイン中将のために用意したものだ。

オーディンで万一の事態が起きたとき使うはずのもの。しかし中将は自分には不要だと言った。宇宙艦隊の残留部隊は自分に従うことを確認済みだと。そのために時間がかかったと。

「馬鹿な、そんなもの認められるか!」
「認めないと言われるのですか」
「そうだ」

「キスリング大佐。シュターデン中将は精神に混乱を生じているようです。医務室に連れて行って鎮静剤でも投与してもらってください」
「承知しました」

“何をする、放せ”と喚くシュターデンを憲兵が連れ去る。制圧に必要なもう一つのもの、“力”、キスリング大佐率いる憲兵隊百名がそれだ……。シュターデンがいなくなった今こそ司令部を制圧する。

「シュターデン中将は精神に混乱を生じ、私の指揮権に異議を唱えた。しかし、今後異議を唱えるものは、命令不服従、並びに利敵行為として処断する。異議のあるものはいるか?」
「……」

「では最初の命令を出す。クレメンツ、ケンプ艦隊に連絡、フェンリルは解き放たれた……復唱はどうした!」
「はっ。クレメンツ、ケンプ艦隊に連絡します。フェンリルは解き放たれた」

「さらに、ミューゼル艦隊参謀長ケスラー少将にも同様の連絡を送れ」
「はっ。ミューゼル艦隊参謀長ケスラー少将にも送ります」
これから先は時間との競争だ……。

■ クレメンツ艦隊旗艦ビフレスト アルベルト・クレメンツ

「閣下、旗艦より電文が」
「うむ」
オペレータより通信文を受け取る。通信文には“フェンリルは解き放たれた”と有った。

妖狼フェンリル、ロキと女巨人アングルボダの間に生まれた怪物。神々の滅びに関与するという予言のもと岩に繋がれていたが、ラグナロックに解き放たれ、オーディンを殺す化け物だ……。いまそのフェンリルが解き放たれた。

俺は直ちに、ワーレン、ビッテンフェルト、アイゼナッハに連絡を取った。前方のスクリーンに三人が映る。
「司令部から連絡が有った。“フェンリルは解き放たれた”」
「!」

三人の顔に緊張が走る。覚悟をしていたとは言えミュッケンベルガー元帥が本当に倒れるとは……。だがメックリンガーは司令部の掌握に成功したようだ。これから先は俺
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