暁 〜小説投稿サイト〜
緋弾のアリア-諧調の担い手-
夏休みU
第一話
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夜にははっきりと解った。
やはりアレは濃密なマナによって生み出された召喚獣。“吸血鬼”の眷獣だ。

眷獣とは意思を持って実体化する程の高濃度マナの塊。すなわち、マナそのものだ。
身を震わす程の破壊力を持つソレが実体化して暴れている。

吸血鬼が何者かと戦っているのだ。
生憎と、使役者の姿はここからは捉える事は出来ない。

戦場となっているのは台場の倉庫街。

周囲に存在する全てのモノを薙ぎ払って。地面、建物を融解させている。
すでに大規模な工場火災程度の被害が出ているのが客観的にもわかる。


「…これ、被害総額だけでもどれ位行くのかな?」


その惨状を目の当たりにして、時夜はそう口にする。
だが、口調とは裏腹にその表情は強張ったものであった。

戦闘が開始されてから約五分程といった所か。
それだけの時間、それほどの被害を出しながらも戦闘はなおも続いている。

“それだけの時間”だ。
都市を一つ陥落させる程に圧倒的な力を有する旧き世代の吸血鬼。

それほどの力が対峙しているのに一向に戦闘は終わらない。

その事実が意味するのはただ一つだ。
吸血鬼が相対している相手もまた、同等の戦闘力を持っているという事だ。


「…どうしたものかな」


最初は少し様子見をして帰るつもりだった。カナやお母さん達も心配している事だろう。

だが戦闘は未だ終わらず、彼らを沈静化させる対魔族のプロ“攻魔師”の気配も周囲には感じられない。

俺や、俺の友人達の街でこれ以上暴れられるのも困る。

今は都内の郊外で戦闘が起こっているが、これが都市部に向くと被害者も多くでる事だろう。
……最低でも死傷者が出て、都市その物が機能しなくなる。


「……さて、どうしたものか」


あれほどの規模の戦闘だ。
いくら戦場が市街地から離れていると言っても、民間人が巻き込まれていないとは限らない。

そしてこの街には時夜にとって守るべき人達がいるのだ。
よほど卓越した術者でなければ、眷獣が暴れ回っている戦場には入る事はできない。

今俺の頭に浮かぶのは二人の人物だ。

一人は自身の父親の倉橋凍夜。
もう一人は術式の師で攻魔師の資格を持つ南宮那月。

だが頼るべきその二人の人物は今現在この街に存在しない。

……なら、どうするべきなのか。


『…時夜、どうするのですか?』


俺の心の迷いを察したのか、イリスがそう告げる。


「―――…俺は」


燃え盛る炎の中に浮かび上がった眷獣が何者かの攻撃に貫かれたのだ。
そうして、時夜の答えを遮る様に悲鳴の様な咆哮が上がる。


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