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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十話 暗雲(その1)
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統合作戦本部 ヤン・ウェンリー
シトレ本部長より、統合作戦本部への出頭を命じられた。おそらくは宇宙艦隊の状況を教えろと言う事だろう。気の重いことだ。執務室へ行くと早速質問してきた。
「准将、どうかね、そちらの状況は」
「はっきり言って最悪ですね」
私はソファーに座りながら本部長に答えた。既にキャゼルヌ先輩には何度か言っている。本部長も承知のはずだ。
「新司令長官は体面を気にするあまり、ビュコック提督やウランフ、ボロディン提督等の実力、人望の有る提督と全然上手くいっていません。その一方でトリューニヒト委員長に近づきたい連中がドーソン司令長官に擦り寄っています」
「それで」
本部長が溜息をつきながら先を促す。
「今度の戦いでも第五、第十、第十二は動員しないようです。もし彼らの力で勝ってしまうと自分の地位を脅かすと思っているようですね」
「それで、君はどうなんだ」
「一番最初に嫌われました。本部長のスパイだと思っているようです」
本部長は思わず目を閉じた。しかし、辛い思いをしているのはこちらだ。
「最悪だな」
「ですから、そう申し上げています」
「勝てるかね」
「司令部では勝てると見ています」
「その根拠は」
「新編成の二個艦隊です。役に立たないと思っています。寄せ集めだと」
帝国では新規に二個艦隊を編制した。それが司令部の楽観視に繋がっている。
「君はどう思っている」
「ありえないでしょう」
「安心したよ。君まで楽観視していなくて」
本当に安心しているのだろうか、そんな気持ちにさせる口調だった。
「どういうことです」
「フェザーンの駐在弁務官事務所から報告があった。その二個艦隊はかなり厳しい訓練をしているらしい」
「精鋭ですか」
「そうだろうな」
やれやれだな。生きて帰れるだろうか。本部長も気が重そうだ。
「何とか勝って欲しい、と言うのは無理かな」
「難しいですね」
そんなすがるような眼をされても無理です、本部長。
「せめて深手を負わないようにして欲しいのだが……」
「……難しいです」
「君は愛想の欠片も無いな」
「出来ないものは出来ないとしか言えません。これで勝てるなら奇跡に近いですよ」
本部長はまた溜息をついた。溜息をつきたいのはこちらも同じだ。今度の戦いは酷い事になりそうだ。前任者のロボス司令長官の方が未だましだった。いつから同盟はこんな酷い国になったのだろう……。
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