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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百九十二話 悪名
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実力者の顔を潰し続ける、そんな馬鹿げた政治制度を地方自治に取り入れる事が出来ると思うか?』
「いや、難しいだろうな」
『その通りだ。そんな事をすれば帝国は中央と地方の間でとんでもない混乱が生じかねないと判断する筈だ。分かるか? 君達の行為は民主共和政の存続を危うくしているんだ』
なるほど、自由惑星同盟の内情に拘るのは危険か。優先すべきは民主共和政の存続……。
「分かった、直ぐに議会を説得して新しい暦を受け入れる」
『それだけじゃ駄目だ。同盟政府から決定の遅延を謝罪し来年からの施行を希望するんだ』
「そこまで……」
『やるんだ、ホアン』
抗議しようとしたホアンをトリューニヒトが抑えた。
『一度はっきりと同盟市民にも理解させた方が良い。帝国からの要求は基本的に受け入れるべき物なんだ。詰まらない感情論で反対出来るものではないとね』
「……」
『帝国は三十年後の統一を目指して着々と進んでいる。同盟もその動きに合わせるべきだ。そうでなければ同盟を見る帝国の視線は徐々に厳しくなっていくぞ』
そして民主共和政を見る目も徐々に厳しくなっていく……。
「分かった、トリューニヒト。君の言う通りにする。ヴァレンシュタイン元帥に伝えてくれ、ジョアン・レベロがこれまでの非礼を詫びていたとね。そして改めて同盟政府から新暦の受け入れと来年からの施行を正式にお願いするだろうと」
私の言葉にトリューニヒトが“分かった”と頷いた。
トリューニヒトからの通信が切れると執務室には重苦しい空気が漂った。
「ホアン、自由惑星同盟は帝国の保護国か……。厳しい現実だな」
「ここに居ると忘れがちだがトリューニヒトは帝国に居る。嫌でもその事を認識せざるを得ないのだろう」
「そうだな、辛いのは奴も一緒、いや辛さは我々以上か」
そんな中でトリューニヒトは民主共和政存続のために戦っている。彼にとって我々の行動は歯痒く見えるのだろう。思わず溜息が出た。気が付けばホアンも溜息を吐いていた。
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