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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百九十二話  悪名
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ーエングラムには卿の言う悪名は無い」
リヒテンラーデ侯が一口紅茶を飲んだ。それにしても、ラインハルトの名を口にしたら露骨に不愉快そうな顔をした。余程に嫌いなのだろうな。

「陛下が為された事はゴールデンバウム王朝、いえルドルフ大帝からの決別と言って良いと思います。帝国の政治、社会体制は根本から変わった。もう同じ王朝とは言えません。しかし王朝の名義はゴールデンバウムです。家の中身は変わっても外見は変わらない。そして同盟人はその外見しか見ていない」
「なるほど、悪名高きゴールデンバウムか。卿の言う通りよな」
「……」
「考えてみると簒奪というのも悪くないのかもしれん。過去の悪事とは決別出来るからの」

おいおい、そんな事言って良いのか。そう思っていたらリヒテンラーデ侯がニヤリと笑った。この爺さん、楽しんでるな。まあ俺くらいしかこんな物騒な話はしないか。他の連中は何処かでゴールデンバウムの名に遠慮が有る。それにしても食えない爺さんだ。

「残念ですが帝国は簒奪ではなく改革を選びました。まあ改革というより革命に近いものですが王朝の交代は有りません。王朝の始祖はルドルフ大帝です。つまり我々は過去の悪名を引き摺らざるを得ない」
「面倒な事よの。……で、如何する? 何の考えも無しにここへ来たわけでもあるまい」

「新王朝成立を宣言してはどうかと」
「あと僅かで新年か、やるとすればその時だな。しかし何処まで意味が有るか……」
「それと歴史学者、政治学者を使って現在の帝国がかつての帝国とは違う事を発表させるのです。ゴールデンバウム王朝は改革により全く別の帝国を創り上げた。新たな帝国を創り上げた王朝もかつての王朝とは違う、新たな王朝であると」
リヒテンラーデ侯が笑い出した。

「卿、面白い事を考えるの。新王朝成立の理論付けか」
「そうです。学者達にはルドルフ大帝の批判をさせても良い。その事自体、新王朝成立と見做す根拠になる。そして講演会、討論会を帝国、フェザーン、同盟の彼方此方で大体的に行わせるのです。当然ですが帝国政府主催です」
「同盟もか」
「そうです。エルスハイマーの最初の仕事になるでしょう」
「まるで洗脳だの、反発するぞ」
また笑った。俺も笑った、確かに洗脳に近い。

「構いません。そのくらいやらなければ同盟人の意識は変わらないと思うのです。例え受け入れられなくても帝国は自分達の王朝が過去のゴールデンバウム王朝とは違うと言っているとは理解するでしょう」
「分かった。ゼーフェルト学芸尚書に話しておこう。適当に学者を選んでくれよう」 
「宜しくお願いします」

新王朝論。少なくとも同盟内部で帝国に協力しようという人間には受け入れ易い理論だ。そして自らの立場の正当性を主張し易い理論でもある。長期に、広範囲に広めていく。
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