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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十九話 運、不運
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遠征、お止めいただくことは出来ませんか?」
「それは出来ん。卿も判っていよう」
判っている。しかし、この男に倒れられては困る。この男が健在であることが必要なのだ。

「では、総司令官は他の誰かにお願いしてはいかがでしょう?」
仕方ない、次善の策だ。
「誰が居る?」
「メルカッツ提督です」

ミュッケンベルガーがメルカッツに対して好意的ではないことは判っている。しかし、もう好き嫌いを言っている場合ではないだろう。
「駄目だな」

「しかし」
「勘違いするな、中将。私はあの男が嫌いではないのだ、だがそれは受け入れられん」
「?」
どういうことだ?

「宇宙艦隊司令長官に必要なものがわかるか?」
ミュッケンベルガーが穏やかな表情で問いかけてくる。必要なもの? なんだろう?
「私には勤まるが、エーレンベルクとシュタインホフには宇宙艦隊司令長官は務まるまい」

「威、ですか」
「そうだ、あるいはそれに変わる何かだな」
満足そうに元帥は頷いた。

“威” 兵を死地に追いやり、兵がそれに服従する事が出来るだけの“威”、あるいはそれに変わる何か。カリスマ性と言っていいかもしれない。確かにエーレンベルクとシュタインホフには無いだろう。そしてミュッケンベルガーには有る。

「メルカッツにはその何かが足りんのだ。艦隊司令官としては私より有能かもしれん。多分、三個艦隊までならあの男のほうが上だ。しかし宇宙艦隊司令長官としては私に及ぶまい。宇宙艦隊司令長官には用兵家としての力量よりも兵を服従させる何かが必要なのだ」

「……」
「あの男に軍功を挙げさせることは出来ぬ。これ以上昇進させれば、必ずあの男を宇宙艦隊司令長官に、と言う声が上がる。それはあの男にとって不幸だろう。私が指揮を執るほか無いのだ」
メルカッツは将ではあっても将の将たる器ではないという事か。

リップシュタット戦役でメルカッツが十分に働けなかったのも、単に貴族連合のまとまりの悪さだけが原因ではなかったのかもしれない。ミュッケンベルガーの言うとおり、確かに何かが足りない。堅実ではあるが大軍を鼓舞するだけの華が無いのだ。

「私が見る限り、今の帝国で宇宙艦隊司令長官が務まる人間は二人しかおらん」
「二人ですか」
一人はラインハルトだな、聞くまでも無い。あとの一人は……。
「一人はミューゼル大将、そしてもう一人は卿だな」
「……」

「卿なら帝国軍三長官、どれでも務まる、しかしあの男は宇宙艦隊司令長官だけだ。戦場では輝くが、後方では周りと軋轢を生むだけだろう」
「……」
「しかし、宇宙艦隊司令長官はそれでよいのだ。戦争で勝てれば良い」
ラインハルトなら勝つだろう。戦争の天才だ。

「今度の戦いだが、勝てると思うか?」
「こちらが優勢
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