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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十八話 葛藤
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するのが難しいとなれば、本末転倒ではあるがヴァレンシュタイン中将を説得するほか無いだろう。あの二人は本来協力し合うべきなのだ。有能な前線指揮官と類稀な軍政、軍略家。こんなところで対立するべきではない……。ロイエンタール少将を呼んでみよう、彼の意見が聞きたい。

五分と経たずにロイエンタール少将はやってきた。席をすすめ話をする。
「今度の遠征で新しく編制された二個艦隊だが、卿はあれをどう思う?」
ロイエンタール少将は黒い右目を沈鬱に曇らせながら答えた。
「……ミューゼル提督を切り捨てるつもりかもしれません……」
そうだな、裏の事情を知っていればそう考えるのが当たり前か。

「私は、ヴァレンシュタイン中将に会って来ようと思うが?」
「?」
「ヴァレンシュタイン中将を説得してこようと思う。ミューゼル大将とヴァレンシュタイン中将は協力し合うべきなのだ」
そうだ、協力し合うべきだ。

「参謀長の気持ちは判ります。しかし上手くいくでしょうか」
「判らない。あとは中将の聡明さに賭けるしかない……」
頼りない話だ。しかし、他に手が無いのも事実だ。

「小官も同行してよろしいですか」
「そうだな、そうしてくれるか」
無言で頷くロイエンタール少将に私は言葉を続けた。

「もし、駄目な場合だが、その時は全てを提督に話し、ヴァレンシュタイン中将がミューゼル提督を切り捨てる積もりでいる事を話そうと思うが?」
ロイエンタール少将は驚いたように眼を見張ったが直ぐに頷き言葉を発した。
「それがよろしいでしょう。ミューゼル提督も少しは自身の成された事を反省すると思います」

「但し、その場合ミューゼル提督はヴァレンシュタイン中将を恨むだろうな」
「……参謀長は、ミューゼル提督とヴァレンシュタイン中将のどちらを頼られますか」
“信じる”ではなく“頼られる”か。どちらに味方するかはっきりしろと言う事だな。

「……ヴァレンシュタイン中将だな」
「小官も同様です」
軍人としてはともかく、人としてはあまりにも未熟すぎる。安心して付いていく事は出来ない。それがミューゼル大将に対する私の評価だ。そして、ロイエンタール少将もヴァレンシュタイン中将も同じ思いなのだろう……。


■ 帝国暦486年9月20日 兵站統括部第三局 エーリッヒ・ヴァレンシュタイン

ケンプ艦隊もクレメンツ艦隊も仕上がりは順調なようだ。このまま行けば十分に戦果を上げられるだろう。メックリンガー少将もミュッケンベルガー元帥の信頼を得つつある。問題は何も無い。あの二個艦隊が使えそうだと判断できた以上、後はどのタイミングでケスラーとロイエンタールに話すかだな。

あの二人の事だ、既に気付いているかもしれない。となると出来るだけ早いほうがいいだろう。自分も切り捨てる
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