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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十八話 葛藤
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に乗る、と言ったのは嘘ではなかった。
特に補給が最優先で受けられたのには驚いた。ミュッケンベルガー元帥の決裁を受けたとは言え、兵站統括部に借りを作りたくないシュターデンは良い顔をしなかったのだ。ふざけた奴だ。
そんな中ヴァレンシュタインが一言兵站統括部に連絡を入れるだけで補給が受けられたのには驚いた。あまりの迅速さに気味が悪くなって副官のフィッツシモンズ少佐に確認したが“中将は色々と貸しがあるんです”と言う。
“貸し”とは何だろう。問いかけると兵站統括部の厄介事は、ほとんどヴァレンシュタインに来るのだと教えてくれた。不思議な話だ、厄介事とは何か、重ねて訊ねると少佐は少し口籠もった後“横領、横流し、密輸、その他諸々です”と小さな声で答えてくれた。
兵站統括部は物資を扱う。それだけに横領、横流しが生じ易い。特に艦隊、基地への輸送では密輸を含めて不正が発生し易いのだ。その摘発、後始末がヴァレンシュタインに集中するのだという。
横領? 横流し? 密輸? その他諸々? 兵站統括部にも監察があるはずだが何故ヴァレンシュタインにそれが? 益々判らなくなって、“どういうことだ”とこちらも小さな声で問いかけると少佐は詳しく話してくれた。
要するに貴族が絡んだ犯罪が発端らしい。通常の犯罪なら監察も摘発できるのだが、貴族が絡むと及び腰になる。報復は怖い、しかし犯罪は摘発したい、その思いがヴァレンシュタインへの事件の丸投げになった。例の内乱騒ぎ以来、彼の容赦の無さは皆の知るところとなっている。
“中将は貴族に容赦しませんから”とフィッツシモンズ少佐が言う。ヴァレンシュタインは部内の処分規定に従って手加減無しに処分したらしい。当然貴族は反発し、その時ブラウンシュバイク公の名前を出したが、結果は悲惨だった。
ヴァレンシュタインはその場でブラウンシュバイク公に連絡を取り、微笑みながら“犯罪を摘発したが容疑者が公爵の名前を出している、軍内部の犯罪であるためこのままでは公爵の屋敷へ憲兵隊を送る必要がある”と伝えた。仰天したブラウンシュバイク公は当然その場で関わりを否定した。
その結果、容疑者はブラウンシュバイク公に罪をなすり付けようとした、という罪状まで付けられて憲兵隊に送られた。それ以来部内の厄介事がヴァレンシュタインに集まるようになったらしい。ヴァレンシュタインは真面目だから手を抜くと言う事が無い。その結果、少佐によれば“兵站統括部第三局は裏の監察局と言われて、監察局よりも怖がられてます。中将は憲兵隊にも影響力が有るから”と言う事になる。
つまりそういう諸々の厄介事をヴァレンシュタインが解決しているため周りもヴァレンシュタインの頼みを断れない。もっともヴァレンシュタインは私利私欲で動く事が無いため、周囲にとっては動き易いようだ。
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