第九話 戸惑う心その五
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「出来るのよ」
「逃げるって」
「この場合は自分からね」
「そういうことなんだね」
「ええ、そうした選択肢もあるわ」
こう言ったのだった、弟に。
「そうすることも出来るのよ」
「よくある話だね」
「世の中にはね」
「そうして逃げることも」
「出来るわ、けれどね」
「そうしたことはだね」
「姉さんはね」
絶対にと言うのだった、姉として。
「優花には取って欲しくないわ」
「そうだよね、やっぱり」
「それで誰も幸せにならないから」
「僕自身も」
「そう、そうならない為にもね」
「姉さんがいてくれるんだね」
「姉さんは信じて」
優子も心から言った。
「お願いするわ」
「それじゃあ」
「一人で勇気を出せないのなら」
その時はというのだ。
「頼ってね」
「そうしていいからっていうんだね」
「一人で駄目なら二人でね」
「わかったよ」
こうは答えたが優花の返事は弱いものだった、そして。
優花はこの日は登校したが一人で席に座っているだけだった、その彼にだ。
龍馬は心配する顔でだ、彼のところに来て尋ねた。
「どうしたんだ、今日は」
「あっ、龍馬」
ここで朝の姉との会話での彼のことを思い出した、それで。
俯いてだ、こう答えたのだった。
「ちょっとね」
「ちょっと?」
「体調がよくなくて」
「風邪か」
「そんな感じなんだ」
「じゃあ今日の昼はあったかいもの食え」
龍馬は優花の話を聞いてすぐに言った。
「カレーなんかいいからな」
「ああ、カレーはね」
「風邪にいいだろ」
「あったまるしね」
優花はこのやり取りには応えられた、力ないままでも。
「それにルーの中に漢方薬が入っていて」
「色々と栄養もあって」
「確かに風邪にもいいよ」
「だからな、風邪ならな」
「カレーだね」
「御前が言ってるだろ」
他ならぬ優花がというのだ。
「風邪の時はカレーがいいってな」
「あとおうどんもいいんだ」
「それとか雑炊だな」
「あったまるものがいいんだ」
力のない声だが龍馬に応えた。
「そういうのがね」
「じゃあお昼はな」
「食欲がないんだ」
実は朝も結局食べられなかった、野菜ジュースと牛乳を飲んだだけだ。食欲なぞあろう筈がなかった。
「とてもね」
「風邪でか」
「どうもね」
「そうか、じゃあカレーは無理か」
「今はね」
「それならな」
龍馬は優花のその話を聞いて言った。
「飲むだけでもな」
「うん、栄養は摂らないいけないっていうんだね」
「風邪でもだよ」
それこそというのだった、優花に。
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