プロローグ 平和な日常
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ら校舎に戻ってたぞ」
「・・・・覗いてたのか?」
少しだけ、明日香の表情が険しくなる。別に見られて困るようなことではないが、気分が良いとも言えない。
「いーや、偶々窓から去っていく女の子の姿が見えただけ」
首を振る命。明日香も命がそんな事をすることはないと長い付き合いで分かっているので、それ以上の追求はしない。一応確認しただけだ。
「・・・気が向いたら、考えとく」
「気が向いても、行動に出すのか考えるだけかよ。それ、善処しますより適当だな」
軽口をたたき合いながら、靴を履き替えて明日香と命は一緒に校舎を出て、校門を抜ける。
帰宅部である2人、というより、この時期の3年生は学校の自習室を利用することがない限り、放課後はすぐに帰宅する。進学校であるこの学校の生徒はこの時期、自分の目標としている高校に合格するため毎日勉強漬けだ。
川沿いの道を二人並んで歩く。
自宅からの徒歩での通学の明日香と違い、命は電車通学なので一緒に帰るといっても、すぐに進む方向が分かれてしまい、一緒に帰れるのはほんの10分程度の時間だ。
お互いに難関私立高校への受験を控えているので喫茶店に立ち寄って長話をするほどの余裕もない。
それでも明日香にとってはこの10分間の親友との他愛のない会話が、学校に通う上で一番に楽しみにしている時間だった。
そんなことを面と向かって言えば、笑われること確定なので、本人に対して言うことは決してない。
いつも通り,当たり障りのないネタで話をするだけだ。
2人で他愛ない話をしながらの帰宅中、明日香は朝のように寒さを感じることはなかった。
「ただいま」
返事がないことは分かっているが、一応言ってから靴を脱ぐ。
そのまま2階にある自室に戻る。この時間帯は両親ともに働きに出ている。年の離れた兄、浩一郎も大学で熱心に講義を聴いている最中だ。
部屋に入った途端、自動で照明と空調が入る。部屋には必要最低限のもの以外、ゲームや漫画、雑誌もない。
かなり広さのある部屋だが、机とベッドと本棚が1つあるだけなので殺風景である。
鞄を横に置いて、ベットに倒れ込む。
勉強をしないといけないが、やりたくないと思う気持ちが体の奥底で渦巻いている。
大手電子機器メーカー、レクトの代表取締役社長の長男として生まれ、父親の後継者として育て上げられてきた浩一郎は、明日香同様に小さい頃から数多くの教育を施されてきた。
そんな兄の姿を見ながら育ってきたので、明日香は自分が不必要なものを全て排除された生活を強要されることに疑問を持つことはあまりなかった。――最近までは。
いくら名門私立中学校といっても中学校の段階で将来の進路について聞かれるようなことはないが、明日香は命の夢について何度か聞いたことがある。
彼
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