プロローグ 平和な日常
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親に注意されたことがあったが、これは直りそうにない。こっっちのほうが自分らしいと思っているし、いざとなればちゃんとした口調でもしゃべれる。上辺だけ取り繕うのには慣れている。
声を掛けてきたのは予想通り、1年生の時から仲の良い安斉命という男だった。
少し茶色がかった黒髪を五分刈りにしている。少し細身であることを除けば、見た目は野球部員のそれだ。
飄々とした態度を取る男だが、学年でも成績上位者トップ10から名前の落ちたことがない。
会話をするときに遠慮や気遣いがないことが好感的な男で、クラスが離れた今も交友を持っている唯一の人物だが、今はその遠慮のなさが恨めしい。放って置いて欲しいときもある。
持っているラブレターが目に入ったのか、命がわざとらしく肩を落とす。
「ラブレターを貰って、ため息付いたり、運がないなんて言うのはお前だけだよ」
「うるさい。探せば他にもいるはずだ」
命は呆れたように言ってくるが、それを一蹴しながらラブレターを乱雑にポケットに突っ込む。ポケットに入りきる大きさでは無かったので、多少折れ曲がってしまうが気にしない。
そのまま命と共に階段を上り、結城明日香は自分のクラスへと向かった。
一時間目の国語の授業の小テストの時間、明日香は問題を解き終り余った時間にポケットに突っ込んでいたラブレターを流し読みする。
小テストをサボっているのではない。
完璧に予習をしてきているので問題を解き終った後に暇な時間ができたのだ。
文面には放課後に校舎裏に来てください、となんとも古典的なラブレターらしい文章が書かれていた。
一瞬、一年か三年のどちらの校舎のことか分からなかったが、直ぐに思い出す。一年の校舎の裏は二年の校舎の窓から丸見えだ。そんなところで告白をする酔狂なやつなどいないはずだ。それに告白を聞いて欲しいなら、自分がこちらの校舎まで来るべきだろう、と明日香は達観した様子で考える。
一般的な男子高校生なら飛び跳ねるような嬉しさを感じるであろう状況だが、明日香は面倒だとしか思わない。
言い訳をさせてもらえうのであるなら,面倒だと思っているのは,告白してくる相手の女子に対してではなく、放課後の時間を奪われることに対してだ。
羨ましい奴。そう思われても仕方ない。
それでも付き合う気のない男子が週に一回近くのペースで告白され続けたら、こんな感想しか出てこなくなっても致し方ないだろう。
結城明日香。
その名は本人としては大いに不本意なことだが、この都内で有数の名門私立中学校においても多くの生徒に知れ渡ってしまっている。
学年でも五位以上の順位を維持し続ける学力に加え、モデルと言われても不思議とは思われない容姿をしている。スポーツは運動部に入っていないために圧倒的とはいかないが、苦手というわけ
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