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「庶長子。」
庶長子
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震えていらっしゃる。

無理も無い。



泣き腫らした様な瞼、、、


最期までお側に…、
付いて居てやりたかった、
お話を聞いてやりたかった…。




台の上には小刀ではなく
扇子が置かれていた。

播磨守の指示なのか
検分役の侍の好意なのか。

扇子を小刀に見立てて
切腹の真似事をせよ、
さすれば介錯人が首を落とす、
年端も行かぬ子供に
少しでも辛い思いをさせない、
そんな気遣いなのか。





猫丸様が此方を見た。




大きく、
大きく頷いてみせた。




猫丸様。


あなたは、今、御立派に
人質としての
責務を果たされます。


あなたの短い一生を、
私は忘れはしない。



運命に導かれるまま、
あなたはお館様と母上様の
お子としてお生まれになった。


そして隣国の人質となられた。




幼きあなたが播磨守の申し出を
きっぱりと
お断りになられた事を、
私は必ず、
必ず、お館様にお伝えします。



不幸にしてあなたの命は
今、絶たれようとしている。




あなたはお父上をお怨みに
なられるでしょうか。


恐いでしょうに、、


なんとも、言い様が有りませぬ。





どこからともなく
念仏の声が沸き起こり
それは日が傾き掛けた河原に
大きな声の塊となって響いた。



猫丸様は震えながら
扇子を取り
私をじっと見詰める。




唇が


は、は、う、え、さ、ま、に、


と、動いた。







「ここは どなた様のお屋敷?」


昨年のある秋の昼下がり、
小さな姫君が庭に
迷い込んで来た。

「ここは私と采女と爺やの所。」

「あなたはだーれ?」

「猫丸と申します。
隣の国から来ました。」

「隣の国って??」


「姫様ー!!
まあまあ、そんな所に!!
申し訳有りませぬ、
突然、お庭まで。笑」



後程、、、
その小さな可愛らしい訪問者が
この国の下の姫君様と知った。


以来、ちい姫様は時折、
侍女達をお供に、いきなり
御忍びで遊びにいらした。



猫丸様は、ちい姫様の
雛遊びに根気よく
お付き合いしていた。



ちい姫様は猫丸様を
お慕いしていた。
小さな小さな恋であろうか。








「和尚、それで猫丸様は
どうなったのじゃ?」

「猫丸様は切腹したのか?」


…この子供らに
どこまで話したものか…。




「猫丸様は、、、

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