2部分:第二章
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第二章
「薬だとしたら最高の薬だよな。何時でも食べられる」
「何時でもですか」
「実際にいつも食べてるしな」
笑ったうえの言葉は続く。
「いつもですか」
「美味いからな。安くて美味い店を見つけるのもおつなものだぜ」
この辺りは大阪人だった。大阪人というのは江戸時代にその性格が出来上がった。これに関しては亀吉も同じだった。丁度出来た頃の大阪人だったのだ。
「ですか」
「ああ。それでだ」
さらに言う。
「親父、すっぽん出してくれよ」
「はいよ。それじゃあ」
ここで親父は振り向いた。やっと。その顔を見ると。
「なっ!!」
その親父の顔は何とすっぽんのものだった。すっぽんそのものの顔を彼に見せていた。そしてその顔でにたりと笑って言うのだった。
「食べるのは構いませんがあまり食べ過ぎないようにね」
「うわああああーーーーーーーっ!」
その言葉が止めになった。彼はすっぽんをよそに店から飛び出て逃げ出した。もう後ろを振り向くことなく家に一目散で走り去るのだった。
それから彼は変わった。金が入っても。
「すっぽん行くかい?」
「いや、いいよ」
仲間に誘われても手を横に振って断るようになった。
「もうすっぽんはな。いいさ」
「いいのか」
「ああ、もう止めた」
仲間達は彼のこの言葉を聞いて驚くことしきりであった。何しろ無類のすっぽん道楽の彼がこう言うからだ。夢を見ているのではとさえ思っていた。
「すっぽんはな。懲りたよ」
「懲りたねえ」
「何があったんだか」
仲間達は彼のそんな言葉を聞いて首を傾げる。しかしそれでも彼はもう誘いには乗らないのだった。それだけは確かになっていた。
「まあいいさ。じゃあ」
「これからどうするんだ?」
「猪だな」
彼は猪を出してきた。
「猪か」
「ああ、牡丹鍋だ」
すぐに笑顔になって話していた。
「それを食うことにしよう」
「猪か、いいな」
「薬だよ」
話が何かすっぽんの時と同じになっていた。
「薬が欲しくてな。どうにも気分が晴れなくて」
「そうか。じゃあ気付けにだな」
「そういうことさ。じゃあ行くか」
仲間達に声をかける。
「牡丹鍋を食いにな」
「そうだな。じゃあ皆で」
「行くか」
こうして彼は今度は猪道楽にはまることになった。それがかなり深みに達して病み付きになり金が入ったある夜。彼は猪をやっているある屋台に入った。
「親父、いいかい?」
「はいな」
何故かこの親父も後ろを向いていた。亀吉に顔を向けることはない。そして亀吉もすっぽんのことは奇麗に忘れてしまっていた。何事も過ぎたるはということだろうか。後にはまた慌てて店から逃げ出す亀吉の姿があった。
すっぽん 完
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