1部分:第一章
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っちにしろ金がないから仕方ないさ。今日は我慢だ」
「そうか」
この日はそれで大人しくうどんを食って帰った。しかしそれから暫く後で大きな金が入った。彼はその金を手に店に向かうのだった。行く先の店は言うまでもなくすっぽんの店だ。
今日来たのは屋台の店だった。ふらりと通り掛かった店だったがそれでも気が向いたので入った。暖簾をあげて店に入り親父に声をかける。
「親父」
「あいよ」
見れば親父は客に背を向けたままだ。亀吉にも顔を向けない。
「まるあるか」
「勿論ありますよ」
まるとはすっぽんのことだ。一応あるかどうか尋ねたのである。
「じゃあ鍋を頼むな」
「鍋ですか」
「ああ、最後は雑炊だ」
椅子に座りながら答える。もう顔がにこにことしていた。笑うと完全に猿のそれになっている。
「それでいいよな」
「わかりました。ただ」
「ただ。何だ?」
「そのまるですけれどね」
親父は亀吉に背を向けたまま話してくるのだった。
「お好きなようですね」
「ああ、大好物さ」
笑ってまた親父に答える。気付けばその前にもう杯が置かれていた。亀吉はそのことにまず少し驚いたが用意がいいと思うことにしてそれを手に取ることにした。
「味がいいだろ」
「確かに」
まだ後ろを向いたままだった。
「美味しいですよね」
「薬ってことになってるけれどな」
亀吉は次第に乗ってきて上機嫌で話すのだった。
「実際のところは御馳走さ」
「御馳走ですか」
「それ以外の何だっていうんだ」
笑ってまた言うのである。
「あんな美味い薬があるか?」
「まあ俗に薬とされていますね」
「それは嘘さ。御馳走だよ」
また話すのである。
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