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すっぽん
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第一章

                    すっぽん
 すっぽんは薬だ。江戸時代ではこうされていた。
 薬だから四足のものでも食べてよかったのだ。理由はどうとてでもつけられるもので実際にそういうことにして人々はすっぽんを食べていた。これは他の動物でも同じであった。とにかく食べる為には適当な理由が必要で理由をつければ後は半ば公然と食べていたのである。
 ましてやこの大阪は幕府の目も殆どなく町人は色々なものを食べていた。何と江戸では取締りが厳しくとても食べられない河豚まで食べていたがすっぽんもまた多く食べていたのだ。
 中にはすっぽん道楽の者もいた。この亀吉がそれであった。名前が亀であるせいかとかくすっぽんが好きだった。金が入れば店に行っていつも食っていた。
「やっぱりあれよ」
 名前は亀だがどちらかというと猿に似た顔をにやけさせながら仲間に話すのだった。
「すっぽんってのはいいもんだ」
「美味いか」
「ああ。滅茶苦茶美味いな」
 舌なめずりさえしての言葉であった。
「鶏に似てるが首の辺りなんかコリコリしてな」
「それがまたいいんだな」
「そうさ。それに」
 彼のすっぽん講釈は続く。
「あの白い柔らかいところがいいんだよ」
「白いところか」
「ああ、そこなんだよ」
 所謂ゼラチンのことである。すっぽんには絶対にあるものだ。
「それを食うとな。精がついた感じがしてな」
「成程」
「水かきのところも甲羅の周りも。残らず食ってだ」
 随分と意地汚い気がする。話すその目は恍惚とさえしている。
「それから締めは」
「どうするんだ?」
「雑炊だよ、やっぱりな」
 完全に顔がにやけていた。
「卵を入れてな。それでもう満腹さ」
「何か話を聞いてるだけで食いたくなってくるな」
「だからいいんだよ」
 彼はなおもその顔をにやけさせたままであった。
「すっぽんってやつはな。こってりとしていてな」
「御前味が濃いの好きだしな」
「ああ。鶏に似てるがもっといい」
 すっぽんの味はそうなっている。鶏に似ているがより味が濃い。とりわけ鍋になるとその味が余計に堪能できる。彼が最も好むのはその鍋であったのだ。
 だが今日は。少し残念な顔になった。
「けれど今日はな」
「行かないのか」
「思ったより儲からなかった」
 彼は腕のいい鍔職人だ。他にも簪もやっており収入はかなりのものがあるのだ。だからすっぽんを楽しむことができたのだ。
「刺身で我慢しておくさ」
「そうか」
「それかうどんだな」
 うどんも好物なのだ。大阪の男らしい。
「女房も待ってるし。また金が入った時だ」
「かみさんが待ってるのなら余計にすっぽん食わないといけないだろ」
「ははっ、そうだな」
 仲間の言葉に思わず笑う。
「まあど
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