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犬の仕返し
1部分:第一章
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 メケはまた真一郎に述べた。
「だからだ。わかったな」
「わからないよ」
 真一郎は口を波線にさせて述べた。
「全然な」
「やれやれ、強情な奴だ」
 メケはそんな真一郎の言葉を聞いて呆れてみせた。前足を人間の手のように動かして肩をすくめてみせたのである。不自然ではあるが人間めいた動きであった。
「そんな奴だとは思わなかったよ」
「思う思わないは勝手だよ」
 真一郎はまたメケに反論した。
「メケのな」
「じゃあ俺が話せることは納得しないのか」
「するわけないじゃないか」
 結構ムキになって言い返した。
「どうして納得できるんだよ、そんなことが」
「じゃあもう一つ見せてやる」
 メケはここでまた言うのだった。
「面白いものをな」
「面白いもの?」
「そうだよ、今御前俺の尻尾踏んだよな」
 メケはそこを抗議してきた。
「それは覚えているよな」
「うん、御免」
 真一郎もそれは覚えている。だから彼に謝罪した。
「悪気はなかったけれど」
「だから極端にはしないさ」
 メケもそれはわかっている。だがどうしても仕返しをしたいというのがまじまじとわかる。彼とて尻尾を自転車で踏まれてはかなり痛いのである。
「少しな。痛い目に遭ってもらうぞ」
「痛い目って?」
「立ってみろ」
 そう真一郎に告げる。
「そうしたら俺が生きて言葉を喋れるようになったこともわかるからな」
「それでわかるとは思えないけれど」
「いいから犬の話は聞け」
 人の話と表現しないのがミソであった。メケは犬だからだ。人間の言葉を話して人間めいた仕草をしてもやっぱり彼は犬なのだ。

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