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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十五話 ベーネミュンデ事件(その5)
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を皇帝は哀れむかのように見ている。
「判らぬか。アスカン家にとってはの、シュザンナはただの寵姫でよかったのじゃ。母になどなる必要は無かった……」
「?」
「最初の子が殺された事でおびえたのよ。アスカン家はシュザンナが予の後宮に入るまでは、貴族とは名ばかりの貧しい家だった。彼らにとって必要なのは裕福な暮らしであって、権勢を振るうことではなかった。シュザンナが子など産んで権力争いに巻き込まれる事を、潰される事を恐れたのじゃ」
「……」
俺もリヒテンラーデ侯も言葉が出ない。それが真実ならベーネミュンデ侯爵夫人が哀れすぎる。
「それを知ったとき、予はシュザンナを後宮から出した。これ以上あれを此処には置けぬ。此処はあれにとって地獄であろう」
「アスカン家を咎める事は出来なかったのでしょうか?」
俺は思わず問いかけた。答えたのはリヒテンラーデ侯だった。
「それは出来ぬ。それをやれば罪は侯爵夫人にまで及ぶ」
もっともだ。それは皇帝の望まぬ事だろう。
「陛下、侯爵夫人は知っていたのでしょうか」
「知っておった。だから予を求めたのだ、ヴァレンシュタイン」
「?」
「誰もあれを愛さなかった。利用しようとしただけだ。予だけがあれを人として、女として愛した……。予はあれに平穏を与えたかったが、あれはたとえ地獄に落ちようとも予と伴に有ることを望んだ……哀れな……」
侯爵夫人が望んだのは、権力でも富でもない、ただ人として愛される事だったのか。
「国務尚書」
「はっ」
「シュザンナを苦しまずに済むように頼む」
「はっ」
「シュザンナに伝えよ。予も後から行く、美しい姿で待っていよ、と」
「はっ」
「陛下、今ひとつ侯爵夫人にお情けを」
「なにかな、ヴァレンシュタイン」
「陛下のバラを侯爵夫人に賜りたく」
「バラか、よかろう、あれも喜ぶであろう」
ベーネミュンデ侯爵夫人は自裁を許された。当初立会人達を罵倒していた夫人は国務尚書がバラを渡し、何事かを囁くとそれまでの抵抗が嘘のように大人しくなり、艶やかに微笑みながら静かに毒酒を飲み干した。
ベーネミュンデ侯爵夫人はバラを握り締めたまま息絶えた。安らかな死顔だったと言われている。国務尚書の命により、遺体はバラを握り締めた姿のまま棺に入れられた。
■帝国暦486年8月5日 ミューゼル艦隊旗艦 ブリュンヒルト ウルリッヒ・ケスラー
ヴァレンシュタイン中将が訪ねてきた。周囲には護衛兵が四人付いている。フィッツシモンズ少佐も入れれば護衛は五人だ。例の事件以来、憲兵隊から身辺警護として付けられたと聞いたが本当らしい。ヴァレンシュタインは二人だけで話したいと言ってきたので会議室に案内する。護衛も付いて来ようとするが、中将が止めた。フィッツシモンズ少佐を
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