第四章
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「嬉しくて泣きそうだよ」
「何かそう言うとな」
「お父さんみたいね」
親戚達はその良に笑ってこうも言った。
「弟だけれど」
「そんな感じね」
「だってな、本当にずっと一緒だったから」
姉一人弟一人で、というのだ。
「姉ちゃんが幸せになると思うと」
「けれど泣くなよ」
「今はお祝いの時だから」
「男が泣いていいのは別の時だけだ」
「この以上はなく悲しい時よ」
こうした祝いの、嬉しい時ではないというのだ。
「今は笑え」
「そうしなさい」
「泣かずにな」
「そうするのよ」
「そうだよな、じゃあ何とか」
それこそとだ、良も言ってだった。
そしてだ、彼は何とかだ。
泣きそうになるのを我慢して笑顔だけを出した、そうして。
式の席にいた、純白のウェディングドレスの姉を見てだ。親戚の席でまた言った。
「姉ちゃん奇麗だよ」
「そもそも結構以上に美人さんだしな」
「子供の頃からそうだったしね」
「こうして花嫁衣装を着るとな」
「余計によね」
「うん、最高に奇麗だよ」
こうも言った良だった。
「これから最高に幸せになって欲しいな」
「で、これからな」
「あんたはどうするの?」
ここでだ、親戚のおじさんおばさん達は良に尋ねた。自分の姉の花嫁衣装を見てうっとりとなっている彼に。
「静ちゃん家を出るんだろ」
「ご主人と一緒に住むのよね」
「じゃあ御前一人だな」
「それでもいいの?」
「ああ、今のアパートだと」
その彼が一人になる部屋ではとだ、良はこのことは冷静に答えた。
「俺一人だと少し広い位だから」
「いいんだな」
「それでも」
「御前一人になっても」
「それでも」
「寂しいだろうけれど」
一人になるからだ、だがそれでもと言うのだった。
「それでもやっていくさ」
「そうか、しっかりとやれよ」
「静ちゃんいなくなってもね」
「何かあったら俺達に言うんだぞ」
「何時でもね」
「いいよ、それは」
実は親戚は皆両親をなくした二人にいつも世話を焼いてくれていた、だが静も良も他の人に迷惑をかけたくなくて申し出を断ってきたのだ。
そして実際にだ、良は今もこう言ったのだ。
「俺一人で大丈夫だからな」
「またそう言うのか」
「やっていくっていうのね」
「遠慮はいらないんだけれどな」
「そうしたことはね」
「大丈夫だから」
やはりこう言った良だtった。
「俺は」
「そうか、じゃあな」
「頑張ってね、一人でも」
「そうしていくよ」
こう言ってだった、そのうえで。
彼は今は姉の結婚を心から喜んだ、そしてその式の後で。
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