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最後の弔い
第二章

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「あの時も言ったがな」
「あってはならないことですか」
「そうだ、だから拙僧は止めたのだ」
「そしてご自身の身をですか」
「宿命に任せたのだ」
「そうでしたか」
「拙僧がすることはこうしてだ」
 やはり書きつつ言うのだ。
「学びだ」
「お隠れになられた帝のですね」
「菩提を弔うことだ」
 その二つだというのだ。
「拙僧達を大事にされたな」
「そうですか」
「拙僧はそれでいい」
「もう都には戻れませぬが」
「どうということなない」
 そのこともというのだ。
「全くだ、だからそなた達もだ」
「学問に励み」
「帝の菩提を弔うのだ、いいな」
「周りの言うことは」
「人が知らずともだ」
 それでもというのだ。
「御仏は知っておられる」
「御仏のご存知ないことはない」
「ではよい、ここでその二つに励むぞ」
「わかりました」
 弟は兄の言葉に頷いた、そしてだった。
 彼もまた学問に励み帝の菩提を弔った、それは弟子達もだった。
 道鏡は下野においてその二つにのみ励み静かな日々を過ごしていた、そして彼もまた衰えていったが。
 この日もだった、書を読み筆を進め。
 帝の菩提を弔った、そのうえで弟や弟子達に言った。
「今朝夢を見た」
「夢とは」
「帝とお会いしてだ」
 彼を引き立ててくれた孝謙女帝にである。
「仏門のことを話した」
「そうした夢でしたか」
「いい夢だった、もう思い残すことはない」
 満足した顔で言うのだった。
「これでいい」
「もうこの世にはですか」
「思い残すことはない」
 全くという言葉だった。
「だからな」
「今日涅槃に入られましても」
「拙僧の様な者はそうなるとは思えぬがな」
「それでもですか」
「もういい」
 思い残すことはないというのだ。
「全くな」
「では」
「そなた達はこれまで通り頼む」
 弟や弟子達に向ける顔も穏やかなものだった、声と同じく。
「学問と帝の菩提をな」
「その二つを」
「励んでくれ、いいな」
「それでは」
「うむ、これを書き終えてだ」
 今は写経をしていた、梵字のものである。
 それを書きつつだ、道鏡はこうも言うのだった。
「粥を食するか」
「お昼の」
「そうしようぞ」
 こう言うのだった、そして弟子達と共に僧侶に相応しい食事をしてだった。
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