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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第六十四話 ベーネミュンデ事件(その4)
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俺とリヒテンラーデ侯は応接室で差し向かいに座りつつ話を始めた。侯の表情も苦いが、俺も負けずに苦いに違いない。馬鹿げた噂に振り回されて怒っているのだ。

「卿、皇帝の闇の左手なのかの?」
妙な表情で俺を見る。本当に疑っているのか?
「閣下、冗談はお止めください」
「しかし、信憑性は有るのじゃが……」

半分くらいは出鱈目だと思っているな、この表情は。
「小官が皇帝の闇の左手なら、此処にはいません」
「フム。ま、そうじゃの」
クビをかしげながらも納得したのか、侯爵は話を先に進めてきた。

「で、どうするかの」
「予定通り進めるしかないと思いますが……」
「調査役、尋問役じゃの、問題は」
「はい、小官だと噂を肯定する事になりかねません。あの二人が何を考えるか……」
「つくづく厄介な噂じゃの……」
「はい」
全く、厄介な噂だ。これから尋問役を探すのは容易ではない。国務尚書自ら尋問するという手もあるが……。

「いかがでしょう、侯自ら尋問者になるというのは」
「何を馬鹿なことを」
「いけませんか」
「当たり前じゃ……止むを得んの、アイゼンフート伯を使者とするほかあるまいの」
「アイゼンフート伯ですか?」

アイゼンフート伯ヨハン・ディートリッヒは典礼尚書の地位にある。地位から見れば適当な人選といってもいいのだが、なんと言っても年齢は八十を越えた老人だ。おまけに典礼尚書自体が最近では名誉職になりつつあり、能力は考慮された事がない。到底まともな尋問など出来んだろう。

「卿の心配はわかる。それゆえ卿も同行せよ」
「?」
「アイゼンフート伯は老人じゃ。卿が代わりに質問するのじゃ」
「なるほど、伯はお飾りですか?」
「うむ。仕方あるまい」
伊達に歳を食ってはいないな。

「明日、宮中で決定するつもりじゃ」
「アイゼンフート伯が承諾しますか?」
「嫌とは言わせぬ。嫌なら典礼尚書をやめてもらうまでじゃ」
怒っているなリヒテンラーデ侯は。
「それは、きつい。となると尋問は明後日ですか」
「そうなるの」
「承知しました」


■ 帝国暦486年7月30日 オーディン ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ

「あと二日もすれば一段落しますよ、少佐」
「はい」
地上車で中将の官舎に向かいつつある途中、ヴァレンシュタイン中将が話しかけてきた。私を安心させようとしているのだろう。それならこんな仕事は引き受けないで欲しい。本来の仕事だけでも大変なのに宮中の勢力争いに絡むなんて。絶対にやめるべきだと思う。おまけにこんな夜中に有力者の家を訪問するなんて胡散臭いったらありゃしない。

しかし、リヒテンラーデ侯が彼を頼りにするのもわかるのだ。中将には比較的私心が無い。宮中の勢力争いに関わろうとしないから
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