第十一話 永遠(とわ)に眠れ
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んやり発光していた。
床がほぼ垂直に傾いているというのに
まるで足の裏に磁石でもつけているかのように
百香の両足は床に貼り付いている。
「やめるんだ!! もう終わったんだ!! 終わったんだー!!」
百香は目を見開き、硬直したまま気を失っていた。
「圷さん、圷さーん!!」
叫んだがとうとう力尽き、武井は百香の足首から手を離した。
憐れむような目で百香を見つめながら、
武井は闇の底へと吸い込まれていった。
機体は鋭角に海面へ突き刺さった。
ザバーー!! 水面が割れ、凄まじい水しぶきが上がった。
機体は一旦は水没したが、波がキノコのように盛り上がると
その下から丸い屋根がぷっくと浮かび上がった。
百香は意識の底に舞い降りていた。
目の前に懐かしい我が家があった。
足元には、愛しい摩周もいる。
「ああ、摩周。会いたかったよ。一人にしてごめんね。寂しかったでしょ。」
百香は、摩周の黒い背中をぎゅーっと抱きしめた。
柔らかい毛の隙間から程よいぬくもりがじんわり移ってくる。
「みゃ〜お」
甘えた声で、摩周がひんやり湿った鼻をぐりぐりと押し付けてくる。
ああ、この感触…、たまらない。
やっと我が家に帰って来れたのね。
でも、これはきっと夢よね。
ううん、夢であってもかまわない。
もう目覚めなければいい…。
夢? ああそうか… そうよ!
理想の家も愛する摩周も、
ママやおばあちゃんや叔母さんにだって
イメージするだけでいつでも会えるじゃない!
そうだわ! この意識を体から切り離して
どこか他所へ飛ばしてしまおう。
そうすれば、私はもう目覚めることはない。
好きなだけ記憶の世界に住みみ続けることができるわ。
うん、そうしよう! この意識を丸ごと飛ばしてしまおう!
百香は意識の錨を上げた。
頭をすり抜け、離脱した意識は淡い光を放ち始めた。
「ああ、これが魂というものなのね。」
百香はなんとも言えない幸福感に包まれながら浮遊していた。
そのまま機体の屋根をすーっと通り抜け、湿気の多い大気中へと飛び出した。
「あんなものに乗ってたんだわ、私。」
巨大な円盤の屋根がみるみる小さくなっていく。
まるでドローンに乗っているような映像。
ゆらゆらと魂の光は上昇を続ける。
厚い雲を抜け、大気圏を抜け、とうとう宇宙空間に達した。
すると光の幅が一瞬暗くなったように見えたが
すぐさま輝きが復活すると軌跡を残しながら飛び出していった。
「さようなら」
遠ざかる鉛色の地球に百香はそっと別れを告げた。
魂の光は流星のごとく長い尾を引きながら
広大な闇の彼方へとあてもなく旅立っていった。
光の点は数多の星に紛れ、やがて区別がつかなくなった。
円
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