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紫煙に君を思い出す
紫煙に君を思い出す
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ぜ」

 身を乗り出して耳元でそう囁くと、今度は耳までもが林檎のように真っ赤に染まった。土方はそれを見られまいと必死に顔を逸らすものの、沖田からは全部丸見えだ。椅子に座り直しても手は指を絡めたまま離さない。
「……そう、か。と、ところでお前は今何やってんだ?」
 慌てて誤魔化しに掛かる土方をおかしく思いながらも新たな一面が見られたようで嬉しくなる。
(こんな顔、夢ん中じゃ見られなかったからねィ……)
 こんな甘いやり取りも初めてした。立場を考える必要がない事がこんなにも幸せだなんて、沖田は知らなかった。恐らくそれは土方も同じ。
「高校卒業したばっかなんでバイトしてますぜ。大学行く気もねーですし」
「お前なァ……それじゃいつか行き詰まるぞ。せめて働くか大学行けよ」
「どっちも嫌でィ。じゃあ、土方さんが食わせて下せぇよ」
 ねェ、とわざと甘えるような声を出しつつ小首を傾げて畳み掛ける。土方が何だかんだで沖田の頼み事に弱い事は知っている。
「う……いきなりヒモ宣言かよ……つーかずりィぞ総悟」
 土方は額に空いている手を当てて考え込んでしまうが、暫くして「今回は特別だからな!」と半ば吐き捨てるように了承した。それを見た沖田は内心でほくそ笑む。
(これで土方さんを誰にも盗られずに傍にいられまさァ)
 沖田が家にいれば彼女もできないだろう、そう考えての事だった。
「あ、勿論彼女なんていやせんよね?」
「当たり前だろ……探してたんだから。テメーはどうなんだよ、彼女いんのか」
 土方はムッとしたように眉をひそめる。
「いる訳ねーだろィ、毎晩誰かさんの夢見て忘れられなかったんですぜ? イケメンなのに彼女どころか恋人いない歴十八年、しっかり責任とって下せェ」
「イケメンって自分で言うのかよ。確かに面だけは良いから否定はしねェけど」
「面だけは余計でさァ」
 わざと拗ねてみせると、土方は困った表情を浮かべた後看板メニューの特製オムライスと山盛りフルーツパフェを注文した。やはり沖田にはとことん甘いようだ。沖田にとってはとても扱いやすく、また、特別扱いされている事が堪らなく嬉しいと心から思う。
 ふとある事に気付いて土方を見る。
「タバコ吸わねーんで? ここ、喫煙OKみてぇですぜ」
「あ、嗚呼……そうなのか。この店は初めて入ったから知らなかった」
 喫煙できる事を教えられると、土方は絡めた指を解いて少しだけ嬉しそうな顔でタバコとライターをポケットから取り出す。タバコをくわえて火を点けようとしたところで沖田がそのライターを奪って代わりに火を点けてやると、鳩が豆鉄砲を喰らったような間抜け面の後に「……ん」とだけ呟いて照れ臭そうにフイッとそっぽを向いてタバコを吸い始めるものだからこれがまた可愛くて堪らないと沖田は思う。大の男に小動物的な可愛
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