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紫煙に君を思い出す
紫煙に君を思い出す
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てしまって動かない人物を見据えたまま立ち上がって服に着いた埃を払う。地図はもう諦める事にする。観光よりも大きな目的ができた。
「あー……ちょっとそこの喫茶店にでも入りやせん? ここじゃ話しにくいんで。ね、土方さん?」
 駅前に喫茶店がある事を思い出し、困惑を悟られないように押し隠しながら誘うと戸惑いながらも了承されて少しだけ気持ちが落ち着いた。




 二人は喫茶店の一番奥にある小さなテーブルに座って約一時間程話し込んでいた。
 お互いに初対面ではない気がする事。その証拠に名前を知っていた事。朧気ながら共通した記憶がある事。土方の方がより明確な記憶があり、ずっと探していた事ーー二人が、両想いだった事。しかし立場を考えて結ばれる事ができなかった事。
 偶然の一致だけでは説明しきれない“夢”と共通する相手の話に、沖田は喜びと同時にどうしようもない焦燥感を覚えていた。
(このままこの人と別れたら、二度と会えねーんじゃねーか……?)
 夢の中の二人は結ばれなかった。今この縁を手放したらまた結ばれないんじゃないか、と。そう考えていた。
「……それで、アンタはどうしたいんですかィ?」
 相手も同じ気持ちを抱えている事を願いつつ、できるだけ穏やかな声で尋ねる。
「俺は……そういうお前はどうなんだよ。信じてくれんのか?」
「信じますよ、他でもねェアンタの言う事だからねィ。俺はアンタの気持ちが知りてぇんですが?」
「俺は……お前が嫌じゃねーって言うんなら……」
 土方は僅かに目を泳がせた後、俯いて沖田の問い掛けに中途半端な返答をする。語尾は小声になって聞き取りにくかったが、沖田にはしっかりと聞こえた。
「アンタ相変わらずですねェ。自分の気持ちは後回し、真選組や俺の事を最優先にして……少しはワガママ言ったって罰は当たりませんぜ? 今は立場なんざ忘れていいんでさァ」
 拒否されたりしないかと内心ドキドキしながらテーブルの上に置かれた土方の手を上から覆うようにして握る。すると土方は驚いて顔を上げ、拒否はしなかったが頬を赤く染めて戸惑いの様子を見せた。沖田にはその様子が非常に愛しく思えて今度は少し大胆に指を絡めてみた。
「そ、総悟……?! 此処喫茶店……!!」
「シーッ……今は周りに客もいねーし、誰も見てやせん」
 驚いて声を上げる土方に人差し指を立てて唇に当て、大丈夫だと言い聞かせる。それでもキョロキョロと周りを見回す土方に苦笑して痛くない程度に手に力を込める。意外にも握り返されて今度は沖田が目を見開く番だった。
「……俺の事、まだ好きか?」
 不安げに揺れる青色と目が合う。珍しく気弱になっているらしい土方をますます愛しくなり、まっすぐに見つめながら穏やかに目を細めると土方の頬の赤みが増した。

「好き、じゃなくて愛してる、です
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