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第一章
若返り
もう百歳になる。しかも二人共だ。
「いやいや、本当にのう」
「そうですねえ」
夫婦で家の渡り廊下のところに座りそのうえで二人でにこにことしていた。そうして話をしていた。
「ここまで長生きできたのも」
「有り難いことです」
こう話をするのであった。
「夫婦でそれぞれ百歳か」
「結婚してもうどれだけになりますかね」
お婆さんはそのすっかり小さくなった身体で話した。
「もう」
「八十年かのう」
お爺さんもここで言うのだった。
「もうそれだけになるのう」
「そうですか。八十年ですか」
「お互い二十の時に結婚したからのう」
そして今に至るというのである。
「そこから考えればじゃ」
「それだけになりますか」
「左様じゃ。生まれて百年」
「結婚して八十年」
「よいことじゃ」
夫婦で日向ぼっこを楽しみながら話をしていく。
「違うかのう、婆さん」
「いえ、その通りですよ」
お婆さんはお爺さんのその言葉に頷く。
「あの戦争も生き残って」
「そうじゃったな」
「いえ、子供の頃にもう一つ大きな戦いがありましたね」
第一次世界大戦のことである。二人の幼い時の話だ。
「確か」
「おお、そうじゃった」
お爺さんはお婆さんに言われてこのことを思い出したのだった。
「あの時のことはあまり覚えてはおらんがのう」
「けれどありましたよ」
「そうじゃったそうじゃった」
歳相応と言うべきか。この辺りはのんびりとしていた。
「あの戦争もあった」
「はい」
「いや、その二つの戦争を乗り越えてじゃ」
また話すお爺さんであった。
「今こうして夫婦で百歳じゃな」
「本当ですね。有り難いことです」
「全くじゃ。しかし」
ここでお爺さんはふと言った。
「一つ心配なことがある」
「心配とは?」
「日本のことじゃ」
彼等のその祖国のことである。
「どうなのじゃろうな。今は」
「今はですか」
「乱れておる」
こう言ってふう、と溜息をつくのであった。
「全くもってな」
「二度目の戦争が終わってすぐの時も酷いものでしたが」
「今も酷い」
お爺さんの言葉は嘆きになっていた。
「それもかなりな」
「そうですね。どうにかならないでしょうか」
「わしも若ければじゃ」
「今よりもですね」
「注意しておった。そして負けなかったわ」
「お爺さんは子供の頃から強かったですからね」
「うむ。今とは鍛え方が違う」
実際に昔の人達は頑健だった。そうでなければ生きられない時代でもあった。乳児の死亡率も戦前までは高かったのである。
「だからじゃ。それはじゃ」
「そうですよね。今の若い人の中には」
「困った者達も
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