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或る画家の遺言。
遺言。 一枚目
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を制服と教室にし、窓辺に立つ彼の姿を描いていました。
白黒の濃淡で描写された雑記スケッチは、ぼんやりとした輪郭を持っていたが、なかなか気に入ったのが正直なところです。

「…うし。こんなもんかなー」

鉛筆をペン差しに戻し、とんとんとスケッチブックを無意味に立てて机を叩きます。
何かに出展するなら下書きくらいはするが、雑記如き、基本的に一発描きなので、消しカスも一切出ません。
俺のちょっとした自慢です。
…今度病院に行く時、持っていこう。
由生に見せてやれば喜んでくれそうだ。
スケッチブックを閉じ、机端のブックトラックに置いて、風呂に入りに部屋を出ました。




落書きが仕上がってから一週間後くらいでしょうか。
土曜日に病室に行ってスケッチを見せると、由生は案の定喜んでくれました。

「おおー。すごーい!」
「あはは。らくがきだけどねー」

布団を挟んだ膝の上にスケッチブックを置いて、由生がそれを指先で撫でます。

「俺、制服着てるね」
「今度は私服にする?」
「え、本当に…!?」
「ちゃちゃっと描くよ。余裕」
「…どの私服がいいかな」
「この間買ったやつでいいんじゃない? カッコイイジャケット買ったじゃん」
「でもあれ冬用だから、もう季節的におかしいんじゃない?」
「じゃあ、今度買い物行くか?」

さらりと出た俺の言葉に、由生の顔がみるみる明るくなっていきます。
そわそわと落ち着き無く布団の上で左右の指を組み合わせて絡めました。
そんな仕草が愉快で、俺もついつい笑ってしまいます。

「いや、でも…。先生に聞かないとさ…」
「そりゃそうだけどさ、すぐそこの横断報道渡った先にあるじゃん、服ある店。…まあ、専門店って感じじゃないしブランド店でもないけど、そこならいいんじゃない?…っていうか、駄目って言われたことないでしょ、ここから駅前くらいなら」

由生が入院しているこの病院は、大学病院です。
しかも、そんじょそこらの大学病院とは訳が違う。
国…というわけではないのですが、北は北海道南は沖縄の地方自治体が協力して設立した団体が運営しており、実際隣接している大学の方では毎年各都道府県から二名ずつ、優秀者を基本学費無料で推薦枠として医学部に入れるようになっているらしい。
敷地はかなり広く、病院やそれに不随する建物が建ち並んで渡り廊下で繋がっている他、レストラン街、スーパー、服屋、郵便局、コンビニ、ヘリポートなど、都心の病院なんかより田舎な分よっぽどあります。
勿論、敷地外の周辺もそれなりに栄えていました。
近くの元国鉄の駅名がこの病院の名前になる程度には大きい。
そして、そんな駅と病院の正面玄関とはあまり離れておらず、徒歩十五分か二十分といったところでした。
この程度の距離
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