遺言。 一枚目
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だね。楽しみにしてる」
「…あーあ。でもいいなぁ。絵の中の自分かあ…」
「理想を不変のものとして残しておきたいっていう感覚は分かるよな。何となくさ」
重ね重ねになりますが、俺は絵を描くことが好きです。
写真や彫刻なども含め、美術系を嗜む人間にとっては、その感覚は多かれ少なかれ持ち合わせているところだろうと思います。
他の人間よりも“時の流れ”の影響を感じていると思うのです。
その急流の音が聞こえないのがおかしいくらい、時間は俺たちの周りをすさまじい速度で流れています。
美しいものや愛しいもの。
それだけではなく、醜いものや酷いものもですが…。
キモチが動いた瞬間を、固定する。
変じているもの、流れているものを、捉え、拘束し、額縁というカゴとタイトルという“名前”を付けて愛玩動物のように飼う。
そこが面白いところだと、俺は思っています。
表現が気に入らないのなら“心動いた瞬間を記録に残したい”などと美しく装飾もできますが、要はそういうことでしょう。
他の画家がどうかは知りませんが、俺は少しスタンスが風変わりらしく、例え美しい桜の風景を描写し、柔らかく優しく描けたなと自分で思っても、何故か顧問によく『小野寺の作品は意外と攻撃的だ』と評価を受けることがあります。
俺は絵を描くことが好きですが、単純に好きなのであって、詳しい美術的知識は殆どありませんでした。
学んで影響を受けてしまうのも嫌だし。
…とはいっても、普通に美術館とかは好きなので、当然多くの芸術家が俺という一個人の価値観に影響を与えているのでしょうが、自主的に誰に似たタッチで描こうとかはありません。
ですから、顧問が何を言っているのか俺には分からないし、彼的にはそこがいいらしいので、変えるつもりは当時からあまりありませんでした。
そもそも、俺の絵を攻撃的だとか評価するのは顧問くらいなもので、部員や他の観覧者などの口からはそんなこと一言も聞いたことがないため、気にしてもいないのです。
評価は人それぞれです。
同じものを見て何と発言するかで、その人のこれまでの人生が見えたりします。
更に、“俺”という個人を知っているか否かによっても、また大幅に評価は変化します。
だから俺は、正直な話、知人からもらう評価はあまり重要視していなかったりするのです。
そこがまた面白いところではあるけれど。
俺の作品を見てくれて、何と発言するかによって、俺は相手のこれまでの人生観と価値観を視ます。
割と顕著です。おもしろいものです。
「絵が動いたりしたら、面白いよね」
手元の本を眺めていた由生は、そう言って顔を上げました。
その意見には、流石に賛同しかねたものです。
「そうかな? …俺は、あんまり好きじゃないけどな」
「何で?」
「絵が変化したら、怖いし気
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