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或る画家の遺言。
遺言。 一枚目
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傑作であるバジルの『ドリアン・グレイ』は、バジルの密かな恋心を込めて描かれました。
口に出来ない自分の恋と想い人の永遠の美貌を祈って描いた作品だったのです。
更に、今ではもう存在しない、卿と出会う前の誠実で無邪気であったドリアンがそこにある。だからこそ魔性の絵になってしまう。
現実のドリアンは時と共に老いることが無くなり、いつまでも若々しく美しく、その代わりに絵画のドリアンが老いていく。
しかし呪いが付いたようにドリアンの周囲には不吉なことが起こり、友人知人も次々と不幸に見舞われる。
ドリアンが背徳や堕落などを重ね心の醜さを得るにつれて、壁にかかった肖像画はどんどん老いてどんどん醜くなり、最終的には見かねたドリアンが肖像画を傷付けると自分も死亡……と、 ざっくりとそんな話でした。


どこかでタイトルだけは聞いたことがあるような『ドリアン・グレイの肖像』ですが、俺は内容を聞いて少し驚いたのを覚えています。
堅苦しい文学かと思いきや、話を聞いているだけで設定からしてなかなか面白そうでしたから。興味を持ちました。

「へえー。不思議な話だね。そんな、禁じられた恋みたいな感じだったのか」

俺が言うと、由生は肩を竦めて教えてくれました。

「オスカー=ワイルドがまず同性愛者だったみたいだから。出てくる人物も男が多いんだよ」
「へえ…。…んー。でも、確かに自分が仲介役しちゃった相手に想い人取られたら、そりゃあ嫌だろうね」
「え、そこなの?」
「ん?」

俺の感想に、由生は苦笑しました。
彼の視点からでは、この作品は別の教訓を抱えているということでした。

「違うよ、ヒロ。これは普通、“悪いこととか不真面目とか、快楽に溺れちゃいけませんよ。いかに外見が美しくても心が美しくないとね”って話だよ」
「ああ、そうなんだ? …なんだ。恋愛話の方にウエイトあるのかと思ったよ」
「もー。…まあ、そこがこの本の魅力でもあるけどね。より背徳感が増すんだよ、きっと」

くすくす笑いながら、由生は膝の上に置いてあったその小説の表紙を撫でる。
俺は、彼との視点の違いに気付かされ、嬉しくなりました。
彼が、既に“大人の視点”に片足踏み入れている俺と考えが違えば違うほど、俺には彼が輝いて見え、ますます彼が憧れの対象になりました。

「読んでみる?」

そう言って、由生は俺に本を差し出しました。
しかし俺はこれを断ります。

「うーん…。いいかなー」
「そう? 面白いのに」
「俺は小説苦手だから。由生からあらすじ聞く方が楽しいしな」
「本当?」

俺が言うと、由生は嬉しそうに顔を明るくさせました。
それから、布団の上に置いた右手を、ばたばたと上下させます。

「じゃあ、色々お勧め紹介してあげるから」
「そう
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