踏み外した歴史編
第9話 新世界は始まらない
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と口では言いながら、すでに知恵の実を得るのは自分だと言わんばかりのオーラが、巴からは立ち昇っていた。
――碧沙は親友の目論見を知っていた。教えられていた。
それでもあえて止めなかった。
ずっと碧沙のことばかり優先していた巴が、初めて自ら発した願いなのだ。それも、碧沙以外の誰かのために。どうして止められよう。
その結末が碧沙の心を裂かんばかりのものであっても、どうして邪魔などできよう。
“新世界なんて始めさせない。今この世界にいる、あなたと、亮二さんのために。だから碧沙は見守って。わたしの選ぶ、紘汰さんとも戒斗さんとも違う、3つ目の未来を”
「わたしたちは女同士。どんな神話も紡げない。どんな世界も始められない。旧世界を塗り潰すことはない。このふざけたイニシエーションを終わりにしましょう」
駆紋戒斗が求めたのは、弱者が虐げられない、ヒトとは異なる生命体で満ちた世界。
葛葉紘汰が求めたのは、異物を自分ごと除き、今在るものは在るままに維持した世界。
――関口巴が望んだのは、親友と恋しい人が健やかであり続ける世界。
旧世界を滅ぼそうとしている戒斗に任せるのは論外。
紘汰のやり方は一見して問題はないが、碧沙と初瀬が異物と見なされ地球を追放される可能性を孕んでいる。
確実に呉島碧沙と初瀬亮二が地球で生きていけるように。
それが関口巴の描く、完成された世界。
「さあ。舞さん」
風に吹き上がる砂のように、金の微粒子が集まっていく。金砂は、巴が伸べた手に重なった手を最初に造形し、徐々にヒトの形――舞の姿を結んでいった。
「ありがとう。そして、ごめんなさい」
巴は苦笑して首を横に振った。
「謝らなくていいんですよ。わたし、あなたを、わたしのワガママに巻き込んだんですから」
舞は巴と手をほどくと、両手に黄金のリンゴを顕し、巴に差し出した。
巴はためらわずその果実を受け取り、齧りついた。
しゅわしゅわと巴の体を濃緑の葉が覆っていく。
やがて葉が落ちて、そこに立っていた巴は大きく様変わりしていた。
「白無垢……?」
誰かが呟いた。
舞が洋の祭司なら、巴は和の祭司だ。全身を白い和服に包みながら、頭に被る白布にだけ青い花を飾ってある。
誰に嫁ぐでもない、見てくれだけの花嫁。
「碧沙。わたし、綺麗?」
「っ……ええ、とても。世界中で一番綺麗な花嫁さんよ。わたしが保証する」
「それなら安心ね」
次に巴の視線は初瀬に向いた。
「亮二さん」
見惚れていた初瀬は、他ならぬ巴からの呼びかけで我に返った。
「できるなら将来、あなたの隣でこの服を着たかった」
彼女の
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