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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十一話 馬堂の手管
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厄介事の中心にいるのは我が主家の御育預殿だよ。
あの野郎、地獄に突き進みやがる癖に自分の足元に何があるか知り尽くして無視をしやがる。
だから誰も彼もが引き釣り回されるんだ」
 豊久は天を仰ぎ、深い、深い笑みを浮かべながら嘆いた。
「あぁもう、アイツの所為でいつも何もかもが滅茶苦茶だ!」

「最近はあまり人の事言えない気がしますな」

「うるさいな、俺は悪くないよ、周りが悪いの」
 連隊長と首席幕僚が常の掛け合いを続けながら判子押しと差し戻しを始めようとするが

「兵站幕僚、入ります。すみません、聯隊長殿に兵部省より使者が来ております!」
 先ほど輜重部隊に指示を出しに出たはずの兵站幕僚が大天幕にとんぼ返りしてきた。
「は?兵部省‥‥‥?」




「山崎、なにやっているんだ貴様」
 豊久がにらみつける先にいるのは黒い洋装を纏った男が居た。軍装ではないがその振る舞いはそこらの新兵よりも陸軍の匂いが染みついている。
それも当然であった。彼は馬堂家の警護班長であり退役する前は憲兵曹長として軍内の揉め事を片端から潰していた手練れである。


「お久しぶりです、若様」

「兵部省の使者と聞いているが?」
 豊久は苦虫をつぶしたような顔で言った。

「はい、私はあくまで物のついでで便乗させていただいた若殿様の伝言役でございます。兵部省の御仁は西津閣下のところに向かっています。若殿様が私費で購入したものを兵部省経由で駒州鎮台に寄贈したという形で便乗させていただきました」

「便乗?……それが?」
 八頭仕立ての大型荷馬車が二台も来ている。つまりは十四石(トン)もの大荷物が積まれている。

「はい、若殿様からの私的な援助品です。ぜひお役に立ててほしいと」
山崎が合図をすると控えてた若い衆が包みを一つ差し出した。

「これは‥‥‥」

「蓬羽兵商が開発した新世代歩兵銃の雛形でございます。”蓬羽試作六四式鋭兵銃” と申します」

「前に一度聞いたことがあるな‥‥‥もう完成させたのか」
 あれを聞いたのは何時だったか、故国に帰ってきた日だ。なんとも馬鹿げた事に家族団らんの場で新式銃の話をしていたのだ。
「‥‥‥ふむ。何丁ある?」

「現時点で六百丁、弾薬は一丁あたり四百発です、その他消耗が早い部品と若様の私物をいくらか」

「ふぅんどれどれ――ドライゼ……?いや違う、どうでも良い、比べるだけ無駄。紙薬莢………後装式であることが重要。改善の余地はある‥‥‥無いわけがない‥‥‥」

「その槓桿――てこを押し込んでみてください」
 かちり、と音がして銃身の正中線上の蓋が開いた。

「成程、ここに装填するのか――空打ちしても壊れないよな」
 山崎が頷いた事を確かめ引き金を引く。
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