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東方虚空伝
第三章   [ 花 鳥 風 月 ]
五十八話 百鬼夜荒 壱
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 夜天より降り注ぐ刃の群れは一度では終わらず二度、三度と百鬼衆に襲いかかる。
 総計で五百を超えた凶器の雨は確実に彼等に傷を与えたが……その効果は薄く、絶命まで追い込まれた者は全体の二割にも満たなかったが――――しかし、この結果は概ね虚空の予想通りだった。

 そもそもにおいて広範囲攻撃というものは致命的な痛打となる事は少ない。
 簡単に言ってしまえば、攻撃目標が“個体”ではなく“地点”に対し適当且つ、大雑把に放っているだけなのだから当然と言えば当然である。
 実力上位者達にとって広域攻撃は費用対効果が意外と悪い為、あまり好まれていない。
 尤も幽香の様に攻撃が単純に広域化するような例外もいるが。


 『烏合の衆』と言う言葉がある――――統率・規律等が無い集団や軍勢に用いられる“騒がしいだけの役立たず”という意味の蔑称(べっしょう)である。
 だがそれは軍や群れの無能に対するものであり、その集団に居る個体が雑魚かどうかは別問題だ。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 虚空の攻撃を口火に両陣営がぶつかり合って、早半刻(約三十分)が経ち主な戦場は三つに分かれていた。

 『暴食(ベルゼブブ)』で大きく抉られた砦前の大穴を中央とし、その左右に残った森と空で両陣営の戦力がそれぞれ凌ぎを削っている。

 最も両戦力が集まっている左側の戦場では――――













 闇夜に浮かぶ月が淡く照らす森の中を一体の獣が駆け抜ける。
 人型に近いその身は三mに届き、両手足等は筋肉の塊であるかの様に太く、大の男一人分程もある。
 虎の様な顔と牡牛の如き巨大な二本の角が特徴的であり、見た目の兇悪さと威容とは裏腹にその全身は白銀の毛に包まれある種の神聖さも纏っていた。

 彼の名は「猛鋳(もうい)」、この近隣では知らない者が居ないほどの齢千を生きる妖怪である。
 だが彼は別に百鬼丸の配下に下った訳でも思想や行動に賛同した訳でも無い。
 彼自身は人を喰う類の妖怪であり人間や他の妖怪と生活を共にする事もなければ、しようとも思っていない。
 しかし無暗に周囲に牙を向けもしないし、喰らう人間は自分の領界に迷い込んだ者や挑んでくる倒魔士等だけだった。
 どちらかと言えばそれなりに無害に近い類であり、この様な騒動に関わる様な性格でもなかった――――が、ある事情があった。

 それは大和の存在――――大和の……天照の徹底した『妖怪廃絶主義』。
 妖怪であれば排除する、というその方針は、妖怪側からすればたまったものではなかったが人間側からすれば支持者の方が多い。
 月の勢力であり、月の出身者が上位を占める大和
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