第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
五十八話 百鬼夜荒 壱
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彼が物心つく頃からすでに里では鴉天狗の下に白狼天狗が傅く、という構図が出来上がっていた。
元々そういう主従関係だったのか、それとも何かしらの契約的ものがあったのか……今となっては確かめようもない。
当時の彼からすればその関係は当たり前の事であり疑問にすら思っていなかった。
唯々剣を振るう日々、能力を持たぬその身で出来る事は刃を振るう事だけ――――と思っていた。
そんな日々がそれなりに過ぎた頃――――彼は自身の生き方を変える出会いを果たす。
それは次期里の党首『天魔』を継ぐと噂されていた少女だった。
一介の戦士、それも白狼天狗である黄葉など本来目通り叶う筈も無いほどの位階の者がいきなり現れたのだから当時の彼の慌て振りは想像に容易い。
そこから二人の奇妙な縁は始まった。
彼女の掲げる理想は黄葉には信じられないものだった――――なにせ『里での主従関係を無くす』といったものだったからだ。
そんな夢物語のような事を真剣に語る彼女に、何時しか黄葉は上辺の相槌ではなく心からの賛同を抱き、生涯の主として剣とその身を捧げることに不思議はなかった。
そして月日は流れ少女は『天魔』を受け継ぎ里の長となった。
しかし現実は甘くは無く彼女が天魔を継いだからといってそんなに容易く改革など出来よう筈も無い。
現に老齢な鴉天狗達で構成されている元老衆では『天魔』剥奪まで話し合われていた。
しかしそんな状況にも好機が訪れる。
鴉天狗の中から天魔に賛同する者達が現れたのだ。
その中核を担っていたのが、若くして鴉衆隊長を務める『桐羽 疾風(きりは はやて)』。
仁・智・勇を兼ね揃えた彼への若い世代の信頼は厚く、元老衆も無闇に干渉出来なかった。
少しずつではあったが天魔が目指す理想へ近づいている――――黄葉は何時か訪れるであろう、その時を思い静かに心躍らせていた。
そうあの時までは…………
悲劇というものは突然訪れるもの。
百鬼衆と名乗る者達に里は滅ぼされ、次代の担い手達は殆どが命を落とし、その先を受け継ぐはずだった子等を奪われてしまう。
守るべき次代を救えず、古き時代の老兵である自分が生き長らえている――――その事が今も黄葉の心に罪過の念が刃となって突き立っている。
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黄葉は天魔を制すように前に出ると、鋭い視線を猛鋳へと向け、
「悪漢の走狗と成り果てている貴殿に天魔様を誹られる言われ等無いわッ!」
怒気と殺気をを込め刃の様に言葉を放つ。
その言を放たれた猛鋳は憤る事も無く、逆に豪快な笑い声を上げた。
「ハッーハハハハハッ!……奴
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