第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
五十八話 百鬼夜荒 壱
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黄葉はその一撃を空を蹴るかの様に跳躍する事で躱し、猛鋳の一撃は獲物を逃し怒り狂った獣の如き暴虐をその先にあった木々にぶつけ紙屑の様に粉々に散らした。
『鎧鋼』
中級以上の妖怪、霊気を扱える人間等が使う防御術である。
その効果は『妖気または霊気等、自身が持つ気を体表に巡らせ硬度を得る』――――簡単に言ってしまえば『防御力を上げる』といった単純なものだ。
熟練すれば体表のみならず自身が纏う衣服や武具等にも同じ硬度を付与する事が出来るようになる。(攻撃などを受けても衣服が消し飛ばない理由がこれである)
特殊な部類の術ではなく基本的なものであり、特に人間側はこれが使えないと話にならない。
この鎧鋼が使えて初めて妖怪と相対できる資格を得られる。
天魔の前に着地した黄葉は未だに抑えられない怒りの眼差しで猛威を睨み、それを浴びている彼は悠然と佇み口元に笑みさえ浮かべている。
再び切りかかろうとする黄葉を、天魔は彼の前に出ることで制し視線の先にいる猛鋳へと言葉を投げかけた。
「先ほどの浅薄との言葉は……我々がこの戦場に出てきているから、と言う事でしょうか?」
「言わずもがなだが……まぁそう言う事だ。負け戦と理解していて態々仕掛けているのだから笑うしかなかろうよ……そういえば奴の一派が天狗の里を襲ったと聞いていたが――――それは貴様らの事か?だとしたら益にもならぬ復讐心で身を亡ぼすか……哀れだな」
そんな猛鋳の嘲笑に、
「貴様ッ!!」
過敏に反応し殺気を放つ黄葉と裏腹に天魔は表情を変える事も無く静かな視線を猛鋳へと向け、
「……そうですね、その通りでしょう」
彼の発言を肯定する。
「勝算など無い事等理解しています……そもそもこの戦の目的に勝敗は関係がありません、があの悪辣な者に一矢報いたいという思いは止めようがありません」
虚空から今回の作戦の本当の目的を聞いた時、天魔には拒否する事も出来た。そもそも虚空は強要などしていない、協力を得られれば儲けもの程度の認識だった。
天狗達にとっては何の得にもならない提案であったが……天魔自身が語ったように身の内で燻る復讐心には逆らえなかった――――寧ろ望んでいたのかもしれない。
ここで散った所で彼女達には後顧の憂い無いのだから。
そんな天魔の後ろ姿見る黄葉は心の中で嘆いていた。
自身の主の自暴自棄にも見える言動、にではなく――――自分自身への不甲斐なさに。
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