第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
五十八話 百鬼夜荒 壱
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ば動く事等出来よう筈も無い。
天魔のこの力は『一定の広さの空間を一定時間完全停止(固定)』させるものであり、その固定された空間は如何なるモノであれ侵入・行動する事は不可能となる。
つまり彼女の力はこの世で唯一と言ってもよい『絶対防御』なのだ。
猛鋳とは別に人型と蛇型の妖怪が天魔の背後から襲い掛かるが、その二体も停止空間の壁に阻まれる。
だが守戦に徹するしかない天魔に敵を討つ術は無く、一定時間しか空間を固定出来ない為そのままでは彼女の死は必至である――――しかし天狗という種族は術と疾さだけが売りではない。
天魔の壁に阻まれ牙を剥いていた人型と蛇型の妖怪の背後に、まるで夜闇から滲み出るかの様に二人の白狼天狗が現れ、その手に持つ三日月の様な刀で首を跳ね飛ばした。
そして猛鋳の背後にも何時の間にか現れた白狼天狗――――黄葉が、二刀の三日月の如き刃を今まさに振り抜こうとしていた――――が、猛鋳はその巨体に見合わぬ俊敏さで迫る脅刃から逃れ天狗達から距離を取る。
鴉天狗・白狼天狗問わずその真価は連携行動にある。
個々人で突飛した力を持っていたとしても彼等は集団戦を主とする。一体多数で確実に敵を討ち取る、というのが天狗の信条であり在り方だった。
多数で襲い掛かる、それを卑怯だ弱者だ、と誹る者もいるが生きる事は勝つ事であり、生きる手段に正道も邪道も無く、強者も弱者もない。
猛鋳に攻撃を躱された黄葉は、現れた時と同じく夜闇に溶けるようにその姿を消し、他の二人の白狼天狗も同じように消えていく。
白狼天狗が使っているのは『朧月』という名の隠遁術である。
“白狼天狗”という名の通り彼等には純白の耳と尾がある。夜闇の中では目立ちそうなものだが、術名の如く霞掛かる月の様にその姿をぼやかしてしまう。
それだけではなく気配すら立ち消え、この夜闇の中で探し出す事は相当に難しい。
姿を消した天狗を探すのは至難、と判断したのかまたは左程興味も無いのか猛鋳は黄葉が消えた空間を一瞥しただけで、その視線を佇んだままの天魔へと向けた。
「天狗というのはもっと明敏な輩かと思っていたが……存外浅薄よな」
猛鋳の低く響く言葉に、投げかけられた側の天魔は彼の言わんとしている事を察し表情を曇らせる。
そして彼女が口を開こうとした――――その瞬間、猛鋳の頭上から現れた黄葉が彼の頭蓋目がけ刃を振り下ろした。
「天魔様へなんたる暴言ッ!!」
怒気と殺気を込め振るわれた刃を猛鋳は左腕を掲げ防ぐと、まるで金属同士をぶつけ合ったかのような甲高い響音が木々の間を走り抜けた。
猛鋳は受け止めた刃を振り払うと、黄葉目がけ右腕を薙ぐ様に振るう。
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